休み時間になると教室は一気に騒がしくなる。
そして…アイツの周りには人が集まる。
「ねえねえ総司。今日カラオケ行こうよ。」
「えー、私と何か食べに行こうよ。」
「うーん…どうしようかな。」
男女問わず集まるけれど、女子率が高い。
他のクラスの女の子まで来るんだ、ほんとモテる奴ですわ。
視界に入るのも嫌だからついつい体を逆側に向け携帯をいじる。
「あー次は古典か。眠いから寝ちゃうな。」
「だめだよ、総司。まーた土方先生に怒られるよ?」
「別にかまわないけど。」
そんな会話が聞こえてきて体が自然に動く。カバンの中から眠気覚ましのガムを取り出し、無言で沖田に投げつけようかと思った時だった。
「あ、あたしガムあるよ。食べる?」
周りにいた女の子がポケットからガムを取り出した。
よく総司が食べている甘いフルーツ味のガム。
そうだよね…女の子はああいう甘い可愛らしいガムをお持ちですよね。
つい手に持っていたガムをカバンにしまおうとした時。
「んー。眠いから辛いのがいいな。ちょうど名前が持ってるみたいな。」
自分の名前が聞こえてきて吃驚する。
思わずカバンにしまいかけた手を止めた。
「ねえ名前。それ一個ちょうだい。っていうかくれようとしてたんでしょ?どうしてしまうの?」
「は…は?別にあげようなんて思ってないけど。自分で食べようと思っただけで…。」
「ふーん。まあいいや。一個ちょうだい。」
そう言って笑いながら手を差し出す沖田が眩しくて私はつい伏し目がちにガムを渡した。
「ありがと。名前。」
「ん…。」
それだけ言うと私はまた携帯に目を戻した。
沖田の周りも会話に戻ったみたいだ。
一瞬。
ほんの一瞬だけだったけど。
すっごく嬉しかった。
だって、なんか。
見ててくれたみたいで。
特別だったみたいで。
なんでもっと可愛くできないんだろう。
もっと女の子らしい反応ができたら。
少しは変わるのかな、私たちは。
放課後。
真っ直ぐ家に帰るのもつまらないと思って私は駅前をふらふらしていた。
ふと目に留まったのは革製のアクセサリーだった。
「…。」
くるくると手首に巻きつけるタイプでシンプルなもの。なんとなく沖田がつけている姿が想像つく。
「そういえば…誕生日だ。」
もうすぐ沖田の誕生日だということは知っていた。だけどなんか今更渡すのも照れくさいし、でも何かしたいしって葛藤に苦しんでいるんだよね。
「たまたま…目に入っただけで。手頃だし?」
とか、可愛くない理由をつけないと買えない自分が嫌になる。
だけど、少しは変われるかな?
「あの…。」
私は思わず店員さんを呼び止めた。
「買っちゃったよ…。」
自分の部屋でラッピングされた袋を持ちながら呟く。
沖田へのプレゼント、もう買ったら渡すしかないじゃない。
だけどどうやって?
「え?僕にプレゼント?今日は大雨かな。傘忘れたんだけど。」
とかいうのが目に見える!!!
そしてその時可愛らしく返せる自信がない!!
よし、練習だ。
私は女優だ。その時だけは女優なんだ。演じろ、演じるんだ私。
「あの…もしよかったら…これ…。」
みたいな感じで、可愛らしいクラスメイトを演じ…くっ無理DEATH!
「ま、いっか。適当に渡そう…。」
私はプレゼントを机の上に置くと夕飯を食べにリビングへ降りて行った。
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