風「我が妻よ、迎えに来たぞ。」
千「っ!!」
「風間…!」
沖「ほんと相変わらず懲りない人だよね。何度も何度も断られているっていうのにさ。」
風「黙れ、幕府の犬が。我が妻は貴様らに遠慮して素直な気持ちが言えぬだけなのだ。」
「羨ましい思考の持ち主だよね。」
風「ほう、名前もいたのか。お前も共に来い。千鶴共々可愛がってやろう。」
「お断りします。」
沖「じゃああんたがこの子達が言うことを全てできたら二人をここから出すことを考えてあげてもいいかな。」
「ええ!?」
沖「ほら、二人とも。あいつができないようなことを言わないと連れてかれちゃうよ?」
…なんって楽しそうな顔してるんですか。沖田組長。
どっちの味方!?
土方さん!斎藤さん!
って止めてくれる人二人とも外出してるー!!
どうしよう!
千鶴ちゃんだけは何が何でも守らなきゃ!
きっと今頃子犬のように震えているはずだ!
そう思って千鶴ちゃんの方を見る。
千「…逆立ちして三回回って愛を伝えるとその恋は叶うらしいですよ。」
あれ?おかしいな。
なんかありえない言葉が聞こえてきた。
沖田組長とそっくりな笑顔の千鶴ちゃんがいる。
沖「あははは!」
沖田組長大笑いなんですけど。
え?
千鶴ちゃんって…え!?
そういう子!?
腹の中、真っ黒な感じ!?
風「西国の鬼の頭領のこの俺がそのようなふざけたことを…。」
千「鬼の頭領ともあろうお方が逆立ちもできないんですね。失望しました。」
えええ!?!?!?
あれ?これ夢かな。
そうか、夢か。ひなたぼっこしてうたたねしてるんだ、私。
風間は黙ると静かに地面に手をついた。
「ってやるの!?本当に!?」
そのまま軽々と逆立ちをし、ふらつくこともなく三回回る。
風「…俺の妻になれ。」
千「お断りします。」
即答!?
まだ彼、逆立ちのままだけど!
不憫。
風「貴様…。」
千「あくまでおまじないなので。でも逆立ちできるなんてすごいですね。次は何にしようかな…。」
ああ。もう純粋そうな笑顔まで黒く見えてきた。
もうだめだ。
平助が見たら泣いちゃうかもしれない。
沖「名前ちゃんは?」
「え!?いや…私はその…。」
ちょっと待ってください。
今千鶴ちゃんでいっぱいいっぱいなんですよ!
沖「じゃあ目隠し鬼でもしようか?」
「は?」
目隠し鬼?
鬼さんこちら手のなるほうへ〜ってやつですか?
本物の鬼さんでやってどうするんですか!
千「楽しそうですね。では風間さん、これをつけてくださいね。」
「って準備万端!?」
千鶴ちゃんはてぬぐいを風間に渡すとパタパタと少し離れたところに立った。
沖「風間に捕まったら負けだよ。名前ちゃん。」
「ええ!?」
沖田組長に引っ張られるように庭の隅に連れて行かれる。
沖「何が何でもここを動いちゃだめだよ?」
「そ…それじゃ捕まるじゃないですか!」
沖「大丈夫。僕を信じて。」
信じられません。
そんな素敵な顔で言われても駄目です。
いや、駄目だから。
信じちゃ駄目だって。
何ドキドキしてんだ!私の馬鹿!
沖「ほら、鬼さんこちらって言わないと。」
ぱんぱんと手拍子をする沖田組長のせいで目隠しをした風間が真っすぐにこちらに歩いてくる。
多分あの人目隠ししてたって気配でわかっちゃうはずだけど律儀に目隠ししてくれてるし。
「おおおお鬼さんこっちこないで!」
千「手のなるほうへ〜。」
いつの間にか私の後ろに立っていた千鶴ちゃんがかわりに歌いだす。
あれ、兄妹なのかな。
もしかして千鶴ちゃんの生き別れのお兄ちゃんって沖田組長なのかな。
迷いなく真っすぐ歩いてくる風間はもう目の前。
捕まったら連れて行かれる!
一生怨みますよ沖田組長!!!
風間の手が伸びて。
私は思い切り目をつぶった。
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