すぐに教室に戻る気もしなくて。
私はうろうろと校舎内を歩いた。
どうして気分が沈んでいるときは周りが楽しそうに見えるんだろう。
特に楽しそうに話しているカップルばかり目に入る。
自然と零れ出るため息は思いのほか大きかったらしい。
原「おいおい、随分大きなため息だな。名前。」
「あ、原田先生。」
いつの間にか後ろに原田先生の姿。
私の暗い声に黄金色の綺麗な目を丸くする。
原「どうしたんだよ、何かあったのか?」
「いや…その…。」
原「平助か?」
平助がこの学校に入学する前から原田先生とは知り合いみたいで、私たちが付き合っていることも平助から聞いて知っているみたい。
原「あいつが何かしちまったか?…ったく、あれだけ俺が言ったのに。」
「え?」
原田先生は腕組みしてため息をつく。
何かしたというより何もしてくれないんですけどとは言えない。
原「あー…その、なんだ。お前らぐらいの年の男はな、ガキだからよ。突っ走るところもあるわけで…自分をうまく制御できないからその辺は許してやってくれ。」
「え??え???」
原「?平助がお前に何かしたんじゃねえのか?そのー…無理やり…。」
「ちちちち違います!!!!」
原「違うのか?」
完全に何かを勘違いしている原田先生に私は訳を話した。
だってこのままじゃ平助が可哀想過ぎる。とんだ濡れ衣だ。
原「えーっと…じゃあ逆か?何もしてこないから悩んでたのか??」
「う…はい。」
恥ずかしい。
恥ずかしくて死ねる。穴があったら入りたい。誰か穴ほってくれ。
原「はははは!そういうことかよ!」
「ちょっと原田先生笑いすぎですから!!!こっちは真剣なんですよ!」
原「いや、悪い悪い。俺のせいだ。」
「先生のせい??」
原「俺が平助に釘さしちまったんだよ。名前のことが大事なら一ヶ月は手を出すなって。」
「え???一ヶ月?」
原「さっきも言っただろ、お前らぐらいの年の男なんて自分勝手だからな。相手の心の準備なんて待てやしねえ。だけどそれじゃ嫌われちまうだろ??」
「それで…。」
さっきもうすぐ一ヶ月って言ったら反応したの?
そう言われてたからキスどころか手も繋いでこなかったの?
原「あ、違うこと考えたい時は頭ん中で円周率数えろって教えておいたぞ。男はすぐやらしいこと考えちまうからな〜。」
「…先生。セクハラで訴えますけど。」
原「Σ悪かったって!冗談だ!」
時々ぼーっとしてたのは円周率数えてたわけ!?
原「ただ…手を出すなの意味を間違えてるな、あいつ。」
「ですね。」
可愛い奴だなーなんて原田先生は笑ってるけど。
いや、笑いごとじゃないですって。
そりゃあ…まだまだ心の準備なんてできてないから、そのー…そんないきなり大人の階段のぼるようなことはことはしたくないんだけど。
原「ま、でもそういうことだ。それだけお前のことが好きなんだな。」
「え/////」
原「許してやってくれよ。きっと今頃青い顔してお前のこと探してると思うぞ。」
そうだ。
私平助を置いて走ってきちゃったんだ。
教室にも戻ってないし本当に探してくれてるかも。
ポケットから携帯を取り出すと着信二件。
どっちも平助だった。
さらにメールが一通。
――どこにいる?俺何かしちゃった!?もしそうならごめん…
原「平助だろ?」
「はい。」
原「ほらほら、早く戻ってやれよ。」
「行ってきます!原田先生!!!」
原田先生に背を向け教室の方へ走り出す。
後ろから走るなよーなんて先生の声が聞こえてきたけど見逃してください。
半分以上は先生のせいなんだし!
教室近くの廊下に平助の後姿を見つける。
クラスメイトに話しかけてるところを見ると私を見なかったか聞いてるんだろうな。
スピードを上げ、思い切り平助に飛びついた。
平「うわあっ!!!!」
「平助!ごめん!ごめんね!!!」
平「ちょっ…名前!どこにいたんだよ!?ってかその…離れて…///」
周りに歩いている子達はみんな目を丸くして私たちを見ていた。
そりゃそうだ。
いきなり私が平助に抱きついたんだから。
「ごめん!私が悪かった!いや、原田先生が悪かった!!!」
平「ちゃんと説明しろって!と…とりあえず離れてくれ!!!」
平助が私を無理やり離すと顔を真っ赤にしたまま私の腕を掴んで歩き出した。
どうやら人がいないところに行くらしい。
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