「名前…良いだろ?あともう1回だけ!頼む!」



「えー。さっきしたじゃん。平助すぐばたんきゅーだからもう嫌だ。やっぱり総司が1番だよ」



お昼休み。切羽詰まった平助の声と名前のあっけらかんと何かを拒む声。保健室の窓側左奥。僕のお気に入りでもある1番陽当たりの良いベッドに引かれたカーテンに2つの影がゆらめいて、平助と思わしき影が小さく頭を下げた。



「この通りだって!」



可哀相なくらい必死に何かを頼み込む平助を見てか、名前が小さく溜息を吐き



「………もう、分かった」



折れたらしい。



「マジ!?やったぜー!!」と声高々にはしゃぐ平助の影。シルエットしか見えていないのに喜ぶ顔がすんなりと僕の頭の中に思い描れるのは付き合いが長いからから、それとも



「はい、ストップ」



右手をズボンのポケットから抜いてじゃっと音を立てながら勢い良くカーテンを引いた。それはもう逃げる子鹿を追い詰めたライオンの様に一思いに。開いた世界に広がるのはキラキラと舞う埃と、思わず目を細めた窓から差し込む強い日差しと、無造作に出された白い脚とそれから、それから、


キミの瞳




―キミは意地悪だ。―





ベッドに座る平助と名前はあわあわと慌てふためきながら目にも止まらぬ早さで何かを背中に隠し、そうして僕を見て「何だ、総司か」と安堵した様に溜息を溢しつつ後から取り出してきたのはPSP。大方予想はついていたけど。



「何してるの?2人で。こんな所で。」



随分と刺のある言い方だったと思う。言葉じゃなくて声色が。



だって高校生が2人ベッドの上に座って、なんて妖しいじゃない。短いスカート履いてるくせにそんな脚を布団の上に晒し出しちゃってさ、平助が変な気興したらどうするのさ。別に平助のことを悪く言うつもりは無いけど、そういうキミの無配慮と言うべきか無防備と言うべきか、抜けてる所が僕は気に入らないよ。別に僕は名前の彼氏でも何でもないんだけどね。



僕もベッドの淵に腰掛けて、足を組みつつ名前を見る。



そうしたらキミは



「ふふ、今日はぷよぷよ。でも平助ね、超弱いの」



僕の気持ちになんて気付かずに陽だまりの中、楽しそうに笑ってゲーム機の画面を僕の目の前に差し出してきた。



「ふっ、ばたんきゅーだって。平助」



平助の操作するキャラクターはよろよろと目をバツにして倒れこんでいて、名前の操作する何とかっていう名前の可愛い女の子のキャラクターは嬉しそうに笑ってた。



「な、何だよ!名前が強過ぎるだけなんだって!」



にやりとからかいながら笑う僕に、悔しそうに反論する平助。名前がこのゲームに強くなったのは僕が鍛え上げたからなんだけどなぁ。なんて思いつつ踵の折れた上履きを脱ぎ捨てて、平助は足元の所に寄せた掛け布団の上に座り込んでいるから僕は枕元に座る名前の隣に俯せに寝転がる。



山南先生が戻ってきたら直ぐに隠せる様にまたカーテンを引いて、小さな空間の中には僕と平助とそして名前の3人。




「じゃあ今度は僕が相手をしてあげるよ」




僕は凄く強いけどね、と付け加えて名前からゲーム機を借り、またにやりと笑えば「よ、よし!かかってきやがれ!」と平助。



カチカチとボタンを押す音を静かに響かせながら時折平助が呟く「あぁ!くそう!」だとか「よっしゃあ!」だとかの声に小さく笑いつつ得意の連鎖で勝負を進めていく。そうして僕が見つめる画面を一緒に覗き込む名前の髪が僕の腕に触れて、甘い匂いがふわりと僕の元まで届く中少しだけ気を取られながらも僕が勝利を収めようとした、



丁度その時。



『あーっと…1年の藤堂平助、昼休みの数学補修授業を無断でサボりやがった藤堂平助、今すぐ職員室に来るように、いいなぁ?』



スピーカーから聞こえてきた永倉先生の声は今目の前にいる平助を呼び出していた。



「あ!忘れてた!今日俺、補修受けろって新八っつぁんに言われてたんじゃん!」



その声に慌ててベッドから飛び起きて「この続きは放課後にやろうぜ!」と言い残しバタバタと慌しく駆けて行く平助の背中を2人で笑いながら見送った後。しん、と静まった小さな空間。



取り敢えず僕はさっき迄平助が居た場所に移動してみる。だって2人しか居ないのに肩を寄せ合って引っ付いている必要なんて無いでしょう?動けばスプリングの軋む安い音がして思わず眉を潜めつつ名前と向かい合わせになる様に座った。



目が合う。



僕には出来ない女の子特有の座り方をした名前の脚が陽の光に照らされていて、何だか気不味く感じながら僕は視線を反らす。キミのそういう無配慮で無防備な所が僕は本当に気に入らないよ。僕の心配とか、僕の気持ちになんて気付かないで、



「総司って何でも強いよね」



そうやって可愛い顔で笑うんだもん。



思えば1年の頃から僕はこんな感じで、ずっとどうしようもなく唯恋い焦がれてた。そうして小さな事に喜んでは悔やんだり、今日みたいに心配をしたりしてその度に僕は手を焼く。



「名前は何でも抜けてるよね」



「あはは、何それ」



「だからね、」



スプリングがまた鳴った。名前の手の甲に僕の掌を重ねて、そのまま真っ直ぐ名前を見つめる。凄く近い距離だった。吐息と吐息が重なりあって名前の驚いた様な瞳に僕が映って吸い込まれそうな程輝く。



「簡単にこんな所に男と座れば、こういうことされちゃうでしょう?ってことだよ」



キスはしない。しちゃったら、からかっただけ。なんて言葉じゃ済まされないだろうし嫌われたりしたら嫌だし。だから、飽く迄脅しとか、からかいとか、そういうつもり。



だったのに、キミは



「されても良いよ、総司になら」



心臓が跳ねた。零に近い距離でそんなことを囁く様に呟いて、大胆な言葉とは裏腹に冗談には到底思えないくらい酷く恥ずかしそうに僕を見て瞳を潤ませるから



「……ふぅん、僕の気持ちも知らないで良く言えたものだね」



掻き乱される心を振り払おうと意地悪く振る舞う。いつもみたいに上手く言葉が切り出せなくて、それ以上は何も言えないまま動くことすら出来ないでいた。



「総司、好き」



あぁもう、何でキミはこんなにも意地悪なの。そんなことを言われたら僕は言うしかないじゃない



「僕も名前が好き」



1度言ってしまえば次々と言葉が溢れてく。凄く好き、大好き、だから心配かけさせないでって続けて、最後にもう1度



「名前、好きだよ」



って僕の心の中に渦巻く好きっていう気持ちが全部伝われば良いのにと思いながら昼間の保健室、僕のお気に入りのベッドの上でキスをした。



「好き」



吐息の狭間でそう囁く名前の声にまた僕の心は苦しくなって、愛しくてしょうがないこの子を強く抱き締めた。

そんなお昼休み。


続きは放課後にしよう。

平助とのゲームの続きはまた今度。






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