―みいつけた―

かくれんぼはあまり好きじゃない。
かくれんぼに嫌な思い出があるからだ。

そもそもかくれんぼはメンタルにくる遊びだと思う。
そう言えば周りのヤツはヘタレかよと笑うけど。

子供の頃はかくれんぼが大好きだった。
特に名前とするかくれんぼは兎に角面白くて、毎日かくれんぼばっかりしていた。

場所は決まって町の真ん中にある三角公園だ。
三角公園は公園の形が三角で、遊具も三角の物が沢山あった。

ルーブル美術館の前のあの正四面体を教科書で見て「三角公園だ!」と叫んで恥ずかしい思いをしたのは小4の時の話だ。

公園は普通隠れる場所が少なくてかくれんぼはそんなに楽しくない。
でも俺達は、だからこそそんな公園でかくれんぼをした。
少ない死角で、工夫を凝らして身を隠す。俺達はかくれんぼを極めようとしていたんだ。

名前の隠れ場所はいつも奇天烈だった。
中でも傑作だと思ったのは、犬の散歩をしているおじいちゃんの手を繋いで孫のふりをしていたやつだ。

帽子を目深に被って、結んでいた髪を下ろしてコートを脱いでいたから俺はあれが名前だと分からなかった。

名前が全然見つからなくて、タブーとは分かっていたけれどその女の子に名前を見なかったかと聞こうとしたら、名前が帽子を取ってにまぁ〜っと笑っていたところでやっと気付いたんだ。

可愛いくて、面白くて、不思議で、一緒にいて楽しい名前が俺は大好きで、俺の初恋相手だった。

そんな名前と最後にかくれんぼをしたのは小2の春休みだった。
名前が「今回はへーすけ君見つけられないかもしれません。」と笑ってきたから、俺は絶対に見つけてやると俄然燃え上がった。

柱の方を向いて目を閉じて数を数え始めると、隠れるはずの名前が俺の肩を叩いてきたから不思議に思ってそっちを向くと、名前が俺の頬に唇を押し当ててきたんだ。

だから俺は真っ赤になって固まっていると名前はにっこり笑って、スキップでジャングルジムの方に行ったから、俺はその姿が見えなくなってから怖ず怖ずと数を数え始めた。

だけどそれからどんなに探しても、どんなに名前を呼んでも名前は見つからなくて、ただ雑草がサワサワと音を立てるだけだった。

夕陽は徒に海へと沈んでいくし、こんなに必死なのにお腹からは馬鹿みたいな音が鳴るし、涙で前は見えないしでもう散々だ。
手の甲は草であちこち切れているし、木にも登ったからズボンの膝は汚れている。

暫くして探しにきた母さんに名前がいないと泣きついたら、母さんは俺の頭を撫でた後に「名前ちゃんの場所はお母さんが知ってるからもうお家に帰ろう?」とぎゅっと俺の手を繋いだ。

その日の夜に母さんから名前は親の仕事の都合でイギリスに行ったと聞かされた。
それから名前とは連絡を取っていない。取れなかったんだ。


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