「ごほっ…ごちそうさま。名前、ありがとう…ごほっごほっ」

「いえいえ、どういたしまして。全部食べてくれてありがとうね」




あれからはじめはどんどんとおかゆを食べてくれて、食欲がないと言っていたにも関わらず鍋に入っていたおかゆを全て食べきってくれた。

自惚れかもしれないけれど、全部食べられちゃうくらいにおいしいと思ってくれたのかなって、そう思っちゃうのは仕方ないよね。

咳をしながら、相変わらずに熱を帯びている顔をふにゃりとさせて笑ってくれたはじめを見て満足したわたしは、空になったお鍋を洗ってこようとキッチンに行こうとした。

お盆にお鍋とお茶碗とレンゲを乗せてから、わたしは立ちあがろうとする。


けれど…



くいっ



「……?」

「………」



立ちあがろうとしたわたしは、制服の袖をはじめに引っ張られた。

その行動になんの意味があるのかと思ったわたしははじめのほうを見る。

すれば、はじめは無言でわたしの顔をじっと見つめていた。

だからわたしもはじめの顔を見つめ返したのだけど、はじめは一向に口を開く気配がなくて。

その沈黙がもどかしくなったわたしは、はじめにどうしたのかと問いかけてみる。




「どうしたの…?」

「……喉が渇いた」

「あぁ、そっか。そうだよね、ごめんごめん」



聞いてみればその答えはどうってことはない、ただ喉が渇いたという訴えで、わたしはそんなはじめに小さく笑いながらスポーツドリンクのペットボトルを渡してあげたんだ。

だけど…あれ?

わたしがペットボトルを差し出しても、はじめは受け取ってくれなくって。

それどころか今度はふいっと顔を横に背けてしまった。




「はじめ?スポーツドリンクじゃ嫌だった?」

「………」



不思議に思ったわたしははじめにそう問いかけたのだけど、はじめは何も言わずにちらりとわたしに目をやるだけだった。

そんな無言の訴えをされてもわたしはエスパーじゃないんだから、はじめが何を飲みたいのかなんてちゃんと言ってくれなきゃ分かんないわけであって。



「ちゃんと言ってくれなきゃ分からないよ。飲みたいものがあるなら買ってきてあげるからちゃんと言いなさい」



子供に言い聞かせるみたいな口調ではじめにそう言ったわたし。

あ、なんかこれ、思ったより楽しいかもしれない。



わたしの言葉にはじめはちょっといじけたような顔をしたけれど、今度はちゃんと言葉を発してくれた…

……うん、言ってくれたには言ってくれたのだけど




「自分では飲めない…飲ませてくれ…」

「はい?」




受け取り方次第ではどうとでも取れるその言葉を聞いたわたしは、ちょっと意味を理解しかねがらもペットボトルの蓋を開けてはじめの口元へ持っていってあげた。

だけどもわたしの解釈が間違っていたのか、またはじめはふいっと顔を背けてしまい…




「あの…はじめくーん。どうしたのかな?」

「………」



今度は何も言わないぞ、とばかりに、力ない瞳でわたしを睨むはじめ。

その態度を見て、はじめのして欲しいことを今度こそ察したわたしは、"これが総司の言うはじめのむっつり…"なんてことを考えながらも自分の口にスポーツドリンクを含んだ。

熱があるときまでそんなことを考えているはじめくん。

ご苦労様である。




そしてわたしはスポーツドリンクを口に含んだまま、はじめの唇に自分のそれを押しつける。

すればはじめの唇が遠慮がちに小さく開いて、わたしはその隙間から自分の口に含んでいたスポーツドリンクを流し込んだ。

触れた唇からはじめの熱が伝わって、その体温の高さに驚きながらも溶けてしまいそうになる。

そして唇を触れ合わせたままの状態ではじめがコクンと喉を鳴らす音が聞こえたわたしは、はじめから唇を離そうとした…のだけど。




「……!!」




急にはじめに後頭部を抑えつけられ、そのままグッと深く口づけられたわたしは、あまりにも突然なはじめの行動に声を出ないほど驚いた。

そして、熱で弱っているというのに力強いはじめの手から逃れられないでいれば、今度は舌が侵入してきて激しさはどんどん増す。



その深い口づけと絡められた舌からも感じるはじめの高い体温に、わたしの頭は朦朧として体が溶けそうになるのを感じる。



そして…



病人の癖になにやっているんだという冷静なわたしが表に現れた頃には、何がどうなったのか、わたしのほうがベットの上ではじめに組敷かれていた。



「は、は、はじめ…?」

「………」



そんな状態に焦ったわたしは慌ててはじめに呼びかけるのだけど、はじめは相変わらずに口を開いてくれない。

それどころかわたしはもう一度はじめに口づけをされてしまった。



相変わらず熱い…一体、体温何度あるの?

口づけをされる中で、わたしはそんなことを考える。

だけどもそんな考えをしていられたのも束の間で、この次にわたしはもっと驚くことをはじめにされた。




「ちょ、ちょ、ちょっと!!は、は、は、はじめ?!」



はじめは急にわたしのスカートを手探りで捲り上げて、そのまま太腿を撫でまわしはじめた。

ちょっと待って!はじめ、あなた病人でしょう!

一体何をしようとしてるの?!




そんなわたしの悲痛な叫びも虚しく、はじめの手付きに激しさが増して来る。

だけど、風邪のせいで熱を帯びたはじめの色っぽい瞳に見つめられてしまえば、わたしは何も言えなくなって…



このままはじめ狼に食べられてしまうのかななんてことを考えながらも、はじめがしたいのなら…って受け入れようと思っている自分もいて。

それでもやっぱり、まだ慣れていないその行為をするのは怖いという気持ちがあるわたしは、その怯えからきつく目を瞑った。



そのとき、だった。




ドサッ




「……!」



急に動きがピタリと止まったかと思うと、はじめはわたしの上にどさりと倒れ込んで来た。

一体どうしたんだと、慌ててはじめの下から逃れてはじめの表情を確認すると…なんとだ。

すーすーと綺麗な寝息を立てて眠っているではありませんか、このお方。




「はぁ…もう。なにそれ…」



散々わたしのことドキドキさせておいて、自分はマイペースに夢の中ですか。




心の中でほんのちょっとだけ毒づいたわたし。

けれど、はじめの安らいだような寝顔を見ていると、その毒はすぐに分解されて消えてしまった。




そして…



「もう…本当に。風邪が治ったら今度はわたしが甘えさせてもらうんだからね」



はじめの耳元でそう小さく呟いたわたしは、そのままはじめの頬にキスを一つ。

今日はいっぱい振り回された気がするけれど、今まで見たことがなかったはじめの色んな顔が見られたからよしとしようかな。




そんなことを考えて小さく笑みを零したわたしは、今度こそお盆を持ってキッチンへと向かったのでした。













気まぐれ狼とお熱な一日





あの後、薬を飲ませていなかったことに気が付いたわたしが慌てて彼を起こすと…

わたしはもう一度彼に食べられそうになりました。

そのことについては内緒です。





next→水城様への感謝の言葉


|

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -