**藤堂平助**






うわー…やっちまった。

どうしよう。





俺は自分の制服の第二ボタンがあった場所を、血の気が引く思いで見つめていた。

あった場所…なんて言い方をするのは、もちろんもうそこにはないからで。

昨日名前があんなに喜んでくれてたのに俺は何やってんだと、自分自身を心の中で責めていた。





ことが起こったのは俺たちが剣道場へ向かっていたその途中。

一階の二年生の教室がある廊下を通ったときに、二年生の女子たちがものすごい勢いで俺たちを取り囲んで。

なんだなんだと俺は目を白黒させることしかできないでいれば、いつの間にか第二ボタンがなくなっていた。

本当に一瞬のことだった。

辛うじて第一ボタンは無事だったけど、そういう問題じゃない。




第二ボタンは名前にあげる約束してたんだ。






「あーあ…どうすんの、平助。名前ちゃん絶対落ち込むだろうなぁ」

「約束も碌に守れないなど…情けないぞ、平助」

「な、なんだよ!一君だって取られてたじゃねーか!」

「俺は誰とも約束していないからな」

「僕は卒業式が終わってからあんな暑苦しいのすぐに脱いじゃったしね」





総司と一君に白い目で見られる俺。

分かってる…分かってるよ、自分が情けないってことくらい。

本当、名前になんて説明しよう。

きっとすっげー落ち込むんだろうな。















「「沖田先輩、斎藤先輩、藤堂先輩!ご卒業おめでとうございます!」」

「あはは、なにこれ。きみたちが花束だなんて似合わないけど、ありがとう」

「ありがとう」

「…ありがとな」

「どうしたんすかっ?!元気ないっすね、藤堂先輩!!」

「ちょっと平助。あからさまに落ち込むの止めてくれないかなぁ」

「そんなことねーって。そんなこと…ねーよ」





剣道場に着くなり、後輩たちが俺たちを取り囲んで花束や色紙なんかを渡してくれた。

総司や一君は素直に喜んでいたけど、俺の気分は暗いままだ。

なんでめでたい卒業式の日をこんな暗い気持ちで過ごさないといけねーんだよ、ちくしょー!





「今ね、平助は名前ちゃんに振られて落ち込んでるの。そっとしといてあげて」

「えっ!名字先輩と別れちゃったんすかっ?確かに名字先輩ってモテてましたもんね!しょうがないっすよ!」

「おい総司!勝手に振られたことにすんなよ!俺は振られてねーっての!」

「同じことだよ。これから振られるんじゃないかな。どうして私のために第二ボタン取っておいてくれなかったの?!ってさ」

「総司止めておけ。さすがに今は冗談に聞こえぬ」

「いやいや!思いきり冗談に聞こえるからな!第二ボタンくらいで…名前が俺のこと振るなんてあるわけ…」




ない、なんて言いきれないところが悲しい。

だって名前じゃないやつに第二ボタンあげちまったなんて知ったらいい気分にはならねーだろうし。

それに約束までしてたんだぜ?

嫌われちまってもおかしくねーもん。

あぁ、本当どうしようかな。




俺がこれからのことを考えて頭を抱えていると、「ほら、名前ちゃん来たみたいだよ。行ってきなよ」って総司に背中を押された。

総司の見ている方に目をやると、剣道場の入口の方に笑顔で手を振っている名前の姿があることが確認できる。

あぁ、でも…

きっとこの後すぐに名前の笑顔なんて消えちまってるんだろうな。

一君なんて同情の目で俺のこと見てるし。




でもいつかは絶対にばれちまうんだし行くしかねーよな。

正直に話すしかない。

これでもし振られても…俺がボタンを守り切れなかったから悪いんだ。





俺は自分自身にそう言い聞かせながら、重たい足取りで名前のいるところまで向かった。


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