廊下は兎に角人でごった返していた。
みんながみんな部活のユニフォームを着て、右手にはチラシ左手には食べ物を持っている。
中には友達もいて、俺の肩をバシバシ叩きながら「剣道部かよぉぉ…!」と叫んできた。…ワケ分かんねぇ。
名前を探したいというのに、そんな人ばかりでなかなか前に進めない。
その転校生はどこに行ったと聞いたら、3階とか職員室とか体育館という風に毎回違う答えが返ってくる。
どこだ!まだかくれんぼすんのかよ…!
「あー!くっそ!」
髪をガシガシと掻き千切ると、スッとくまの着ぐるみが現れる。
渡されたのは一枚のチラシ。
『キューティクル部に入りませんか?』
キューティクル部ってなんだよ!!
それに俺は1年じゃねー!
「…キュ、キューティクル部に入れば、その前髪もどうにかなると思います。」
「うるせーよッ!」
ビクッと肩を震わせたくまに叫んでごめん、と頭を下げてからその場を立ち去る。
キューティクル部…近藤校長それ許可したのかよ…
ヴヴヴヴ…
バイブが鳴ったケータイを開くと、総司からメールが一件。
『屋上に来て。』
屋上……?
***********
もしかして私は凄い学校に転校してきたのかもしれません。
この学校にはキューティクル部という不思議な部活動が存在する上に、魔術師がいるのです。
魔術師の沖田さんは初対面にも関わらず、私の名前を当ててきたのです!
しかもイギリスから来たのもご存じの様でした。
私は鳩が豆鉄砲を食らったような表情をしながらひたすら沖田さんの言葉に頷くしかありませんでした。
あなかしこあなかしこ…!
「あの、やはり沖田さんは…"見える"系の方なんですか…?」
「…!うん、そーだよ。名前ちゃんの名前を知ってたのがいい証拠だよね。」
「総司…!」
「嗚呼やはり…っ!」
私は沖田さんに向かって手を合わせると、沖田さんは声を上げて笑いました。
沖田さんはずっとにっこりと笑っていて私の心もほっこりします。
その笑みはまるで日向ぼっこをしている猫のようです。
沖田さんの隣にいらっしゃるのは今朝お世話になった風紀委員さんです。
風紀委員さんは沖田さんの言動に眉を顰め溜め息を吐きました。
私が風紀委員さんに今朝はありがとうございましたと頭を下げると、風紀委員さんは俺は仕事をしたまでだと頭を上げるよう促してきました。
少し怖いイメージの風紀委員さんでしたが、彼はきっといい方です。
キリリとした風貌の中にも優しさが滲み出ています。
えっと、斎藤さんといいましたか。
「名前ちゃんは部活動入るの?もう決まってる?」
「あ、はい。今のところ剣道部に入ろうかと考えています。」
「本当?僕達剣道部なんだ。名前ちゃんなら大歓迎だよ。」
「ああ。」
「本当ですか!?」
なんと、こんな素敵な方達と同じ部活動なんて、なんたる僥倖…!
今頭の中で想像したこの方達と私が同じ空間で青春を謳歌する様子は、他人様には少し恥ずかしくて見せられないくらいキラキラしていました。
氷を3、4つ入れたグラスの中に注ぎ込んだ炭酸水の様にキラキラしていました。
昔読んだ本で青春は炭酸水のようなものだといっているものがありましたが、成程、キラキラしているのですね。
嬉しくて笑っている私の髪を沖田さんは人指し指でくるくると巻きます。
そうなのです。左のそこの髪はどうやっても跳ねてしまうのです。
あまりにも強情な髪に主人である私が白旗を出して、チャームポイントとして今日も今日とて髪を跳ねさせているのです。
キューティクル部に入ればこのハネが直るのかは少し気になります…。
「そうだ、名前ちゃん。君に会ってほしい人がいるんだ。」
「会ってほしい人ですか…。」
「うん。名前ちゃんにすごく会いたがってるんだ。だから屋上行こう?」
「分かりました。」
友達百人出来るかなではありませんが、この様に知り合いの輪が広がってゆくのはとても素晴らしいものです。
沖田さんや斎藤さんの様に素敵な方だといいな、と思いながら私は意気揚揚と階段を昇っていくのでした。
「(…たまにはいい事もするのだな。)」
「(うん?だって二人の愛の再会劇見たくない?)」
「(総司!)」