はらりはらりと桜が舞い散っています。
あまりの美しさに私はほぅと感歎の息を吐くと、桜は風に揺られてさらさらと花弁を散らせました。

私はやはり桜は素晴らしいものだな、と実感しました。
コンクリートを破ってしまうほどの立派な根からは生きる活力を感じますし、麗しい花弁からは美しさ、散る姿からは去り際の美学を感じます。

四季を楽しむ日本人が特に愛してやまなかった桜に私は何度ノスタルジアを感じた事でしょうか!
イギリスでは桜はあまり見かけませんでした。

こうやって桜の前でうつつを抜かしている場合では無いとは分かってはいるのですが、あと5分、あと5分…と先程から20分はここで過ごしています。
いけません、この調子では学校中を見終わる時には日が暮れてしまいます。

今日から始まる新しい学校生活。今日は校長先生の話を聞いて、校内を回るだけですが、やはり何事も初めが肝心。
first-impressionはなかなか覆せるものではありません。
やるべき事をせずに桜を眺め続けているなんてとんだなまくら者です。

先程、少し怖い印象を受けつつも丁寧に教えて下さった風紀委員さんの言う通りに事務室に行かなくては…!

ついに学校内に入ると思うと、緊張で手にじんわりと汗が滲みます。
しかしここで気後れしてはなりません。
私はふん!と鼻息を吐いたあとに気持ち背筋をはって、校内を闊歩し始めました。


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どういう事でしょうか、私の右手にはたこ焼、左手にはりんご飴、そして目の前にはくまさんがいます。

今まで会った人のなかで一番包容力のありそうな優しい近藤校長先生とこれからの事を色々話し、その後学校の中をふらふらと見て回っていますと、私は嵐にでも巻き込まれたかの勢いで沢山の人に会いました。
そしていつの間にか私の手には美味しそうな食べ物が沢山載っていました。
私、そんなひもじそうにしていたかな…?

そして今、こうやってくまさんと対面しているのです。

「……死んだフリをした方が宜しいでしょうか?」

「い、いやっ!大丈夫っす!」

「分かりました。」

年期の入ったくまさんは全体的に薄汚れていて、半開きの口や下がった眉毛にもの悲しい感覚を覚えます。

くまさんは私の問いに慌てふためき、大きな頭を横に振りながら手を前に出してきました。

どうしてくまさんがここにいるのでしょうか…?

「…あの、何かご用ですか?」

そう今までたこ焼やりんご飴を下さった方に話を聞くと、皆さん答えは同じようなものでした。

「あの、キューティクル部に入りませんか…っ?」

「キュー、ティクル部…?」

お話を伺いますと、キューティクル部はストレートパーマはかけずに、限り無くストレートパーマをかけた様なさらさらな髪を目指す部活だそうです。
活動内容は主に、シャンプー・リンス・コンディショナーでプロ顔負けの技で髪を洗う事らしいです。
シャンプーはワンプッシュ、指の腹を使うらしいです。成程、勉強になります。

しかし私はキューティクル部などという部活を初めて聞きました。
部活として成り立っているのかというのが正直な所です。

それに髪のケアを部活で行っているのなら、部活動勧誘はその自慢の髪を披露しながらすべきなのではないでしょうか?

インパクトは抜群なのですがどこか惜しい、そんなくまさんもといキューティクル部に一抹の愛しさを覚えながら、私はごめんなさいと頭を下げました。

元より私の狙っている部活動は一つだけでした。
剣道部です。

小学校の頃、毎日の様に一緒に遊んだ幼馴染みの平助君という男の子がいるのですが、平助君はある日私に「剣道教室に入った!」ととても誇らしげに話してきました。

それからも剣道教室での話をそれは楽しそうに話す平助君がとても羨ましくなって、私は母親に私も剣道教室に入りたいと強請ったのですが、母親はそんな女らしくない事はするなの一点張りで私は泣く泣く剣道教室を諦めたのでした。
そんな時にイギリスに引っ越す事が決まったのでした。

高校で充実した毎日を過ごす為に部活動に入ってもいいかと両親に問えば、父親は笑顔で了承してくれたのですが、母親は成績を落とさないという条件付きで了承してくれました。
文武両道ってやつですね…!

私はやってやる!と右手で拳を作ったのですが、残念な事に私の運動神経はあまり芳しくありません。我ながら自分のとろさには驚く部分があります。
ですので自分は一瞬の隙を突く剣道は向いていないのではないかと思います。

それで私の闘魂は何処へやら、マネージャーになろうかなと思っているのです。
私も平助君のように自分にあった事を見つけられたらいいのですが…。

そう言えば平助君はお元気でしょうか…?
最後のかくれんぼの日に私は平助君にどうやってイギリスを説明すればいいのか分からなくなって、結局何も言わずに行ってしまいました。

その事を平助君に謝りたいですし、それを抜いても平助君は大好きな初恋の方ですのでまたお会いしたいのです。

この学校に平助君がいて剣道部に入っていたりしたら言うことなしなのですが、そんなに上手くいくものではありませんよね。

かれこれ20枚は貰った部活ポスターに残念ながらピンときたものはありませんでしたので、私はくまさんとバイバイして、とりあえず剣道部は何処で活動するなのかを探るべく、学校探検を再開したのでした。


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