校庭に出ると・・・溜息が出るくらいお約束のリムジンが校門に横付けされていました。


「遅いではないか・・名前。俺の調べではもうとっくに授業は終わっているはずだが。」


俺の調べって・・相変わらず、すごいよちーちゃん。


「あのね・・。」


「まったくこの俺を20分も待たせるとは・・大した女だ、名前。さあ、これから何か冷たい物でもどうだ?」


どんどん自分のペースに持ってくるちーちゃんには逆らえない・・、思わず、傍に居る平助くんの手を握ってしまいました。


「ちょっと待った。」


「あ、そう言えばパリの四ツ星レストランのパテシエを親父がうちのホテルに招いていると言ったな。行ってみるか?」


「おい、無視すんなよな。」


「さっきからブンブン蚊が五月蠅いと思ったら、朝の駄犬ではないか・・何か用か?」



「俺は駄犬でも蚊でもない、名前の兄妹になった橘平助だ。」


「橘・・確かおまえの他に4匹の飢えた狼がいたな。」


「兄貴の事はどうでもいいよ。とにかく、名前の事は俺がしっかりと守るんだから・・・部外者は引っ込んでろよ。」


「ほお〜・・たかが駄犬の分際で俺にそんな口をきくとはな・・面白い、平助と言ったな・・おまえは何が得意だ?」


「俺は・・・剣道なら幼い時からやっているから自信がある!」


「剣道か・・いいだろう、道場へ案内してもいらおうか・・橘平助。」


「分かった、付いて来いよ。」


「平助くん・・。」


「名前は心配しないで。俺なら大丈夫だよ。化け物みたいに強い兄貴4人に鍛えられてるんだ、負けないよ。」


そう言ってさっさと歩いて行く平助くんをゆっくり追うちーちゃん。


「なかなかやるじゃない、平助。」


いつの間にか私の傍に来た兄二人はちーちゃんから目を放さない。


「名前、あの男は剣道の経験は?」


「分かりません・・でも私が知ってる限りではちーちゃんが何かに負けたと聞いたことが無いのです。」


「歳兄みたいで気に入らない・・でも安心して。平助が見事に散っても僕や一くんがしっかり守ってあげるからね。僕らは今年のインターハイで決勝を戦ったんだもの。」


「すごいですね。」


「いや、いつものことでどちらかが優勝する・・ちなみに今年は俺だったが。」


「一くん、そのドヤ顔止めてよね・・あれは運が悪かっただけでさ・・。」


二人の凄さを聞いても何だか落ち着かない・・・平助くん・・そう、今の私には平助くんの事でいっぱいなのです。


道場へ着くともうすでに平助くんとちーちゃんは竹刀を持ってて対峙していました。


その姿に今まで賑やかだった二人の兄は険しい表情になりました。


「一くん・・・どう思う?」


「平助では無理だな。」


「だよね・・。」

「あの・・構って・・・ちーちゃんはただ持っているだけの様な感じですけど。」


「あれはね何気に持っているようだけど・・隙がないのさ。不用意に打ち込むと下から袈裟に掛けに斬られるよ。」


確かにしっかり構えている平助くんの表情に余裕が感じられない・・これは・・そう・・ちーちゃんのペースだ。


「どうした、怖くて打ち込めないのか。」



あざ笑うちーちゃん・・・。



平助くんは唇を噛みしめて耐えているようだったが、一気に突進してきてきました。


それをまったく動かずに受け止めるちーちゃん。


何度打ち込んでも払われる・・。


「手ごたえが無くてつまらんな。どうだ、そこで観ている狼ども・・なんならおまえ達も一緒にどうだ。」


「よく言うよ。僕らも一緒だなんて甘く見られたもんだよね・・一くん。」


「ああ、その生意気な口を黙らせてやろうか。」


二人の兄が竹刀を取りに動こうとした瞬間


「待てよ、これは俺の勝負だろ・・二人の介入なんてありえねぇから。」


「平助、やせ我慢は止めな。」


「頑張った事は認めるぞ。」


「何言ってんだよ。言っただろ・・これは橘家の男としての戦いだってさ。俺の事を心配してくれるのなら黙って見てろよ。」


「平助の分際で生意気だよ・・。」


「そうだな。」


兄達はそこを動かず見守る事に徹したようでした。
「なんだつまらんな、だが、せっかくの兄の申し出を断ったおまえの意気に応えて叩きのめしてやる。」


ちーちゃんはそう言うと今までと違って平助くんを攻めにかかりました。


素人の私でも分かるくらい振りの速さに、平助くんはついて行くのがやっとで身体のあちこちに傷を作っていく。


「総司さん、もう勝負はついているんでしょ・・止めさせてよ。」


「名字、気持ちは分かるけど・・あの男、決定打を入れていないんだよ。」


「え?」



「きちんと一本を取らないように打ってる・・あれは平助を痛めつける為にわざとだな。」


そんな・・ちーちゃん・・平助くんをどうするつもりなの・・


全身をかなり打たれて汗と血だらけの平助くんは立っているだけで精一杯に見えました。


私は無我夢中で平助くんの前に立って・・。


「名前、何の真似だ・・勝負の邪魔はしないでもらおうか。」


「ちーちゃん、何が勝負です。決められるのにいたぶるような事を・・もうやめてよ。」


「そうか・・おまえがそう言うならそろそろ飽きたし止めてもいいがな。」


あざ笑うように私を覗き込むちーちゃん・・でもこれで止めてくれるなら・・そう思った時でした。


「名前、余計な事すんなよ。これは男の勝負なんだ・・もうおまえの事なんて関係ないんだよ・・どけ。」


平助くんにいきなり力強く押されて・・よろけた所を一さんに抱きとめられました。


「おのれ、駄犬が。よくも名前を・・・。突き飛ばした罪は重いぞ・・思い知るがいい。」


私は見ていられずに一さんの胸に顔を埋めました。


でも・・。


「ダメだよ、名字。平助の頑張りをきみが見てあげなくてどうするのさ。」


いつもは冗談ばかりの総司さんの言葉に私は勇気を貰って戦況を見つめることにしました。


結局ちーちゃんは用事が出来て試合を放棄してしまったから、平助くんの勝にはなったけれど・・誰も納得していません。


でもそんなことはいいの・・私は立ち上がれない平助くんに抱きついて泣いてしまいました。


「名前、俺は大丈夫だからさ・・泣くなよ・・な。ほら新品の制服が汚れるから離れろよ。」


「汚れなんて洗えば綺麗になるもん。このままもう少し一緒にいたいよ。」


「いいなあ平助、名字にそこまでされてさ・・僕が戦えばよかったな・・でもこんな不様な事にはならないけどね。」


「総司、いい加減にしろよ。平助、立てるか?」


「何とか・・。」


それから、一さんが左之さんに連絡してくれたので平助くんは車で近くの病院へ行きました。

幸い、打撲で済んだのでよかったけれど・・その夜、私達は歳三さんに物凄く怒られました。


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