そんなある日のこと。


いつものように裸の左之さんに見送られながら、家の外に出ると・・・そこには真っ白いリムジンがドーンと止まっていました。


「なんだよ、人の家の前にさ。」


平助くんの呟きにどう答えたらいいか分からないほどそのリムジンの主を知っている私・・。


「やっと出て来たな、名前。」


ドアが開き出てきたのは・・認めたくないけど・・やっぱりあの人だ。

「ちーちゃん、どうして・・。」


「え、名前の知り合いなの?」


おメメまん丸な平助くんが驚くのは当然なのです。


リムジンの主は風間千景といって父の親友の息子さん。


風間総業という大企業の御曹司で子供の頃から人の上に立つ教育の賜物なのか、俺様度が強くて親しいお友達がいませんでした。


でも恐れを知らない幼児の私はちーちゃんと言って千景さんにくっついていたから、自然とちーちゃんの妹分に認定されたのです。


忙しい父に代わって色んな所に連れて行ってもらったし、島原女子を勧めてくれたのもちーちゃんでした。


「どうしてだと?勝手に転校しておいて。」


あ、やっぱりそこか・・・。


「ちーちゃん、ごめんなさい。ここからだと島原女子に通うのは大変だし、家族で決めた事だから・・。」


「おい、だからこいつは誰だよ?」


平助くんは私の袖っを引っ張りながら答えを待っています。


「こいつだと・・無礼な。今大事な話をしているんだ、黙ってろ。」


ちーちゃんは平助くんを睨みつけて一喝した・・・平助くんは驚いたのか私の袖から手を放しました。


「名前。分かっていると思うが、おまえに島原女子を勧めたのは考えがあってのことだったのだぞ。

あそこならセキュリティーがしっかりしているし・・将来俺の・・いやなんでもない・・とにかく飢えた狼率の高い薄桜なんぞへの転校は絶対に認めんからな。」


「そんな・・・もう転校の手続きも終わってるの・・事前に相談しなかった事は謝りますからお願い・・認めて。」


そう言ってちーちゃんの胸に飛び込んで返事を待ちます・・・いつもならこれで許して貰えるんだけど・・。


「おまえは・・・。よかろう、転校の件は飲んでやるだがその代わりに送り迎えはこのリムジンを使ってもらうが・・いいな。」


「・・うん・・・それでちーちゃんが許してくれるなら・・。」


「よし、ではこのまま行くぞ・・初日から俺が自ら送ってやるのだぞ、有り難く思え。」


「ありがとう、ちぃちゃん。」


私は仕方なくそのままリムジンへ乗り込みました。


「あ、平助くんは・・。」


「俺の車に駄犬を乗せるはずはないだろう。」


聞くだけ無駄だった・・・平助くん・・ごめんなさい。


おい・・・なんだったんだよ〜


その場に残った平助くんの叫びが・・・・。

当然昼休み返上でお兄さん達の質問攻めにあう。


「つまり風間ってストーカーに狙われてるんでしょ。」


総司さん・・どう聞いたらそう言う事になるの・・。


「総司違うぞ、風間って言うお節介がだな名前を思っての行動だ、だが、その必要がない事を平助が説明しなかった事が問題なのではないか?」


「え〜、俺かよ。あのさ、二人とも後で見てみたらいいよ・・常識を超えてるからね・・あの人。」


平助くんは思い出したのか・・震えているように見えるけど・・。


「みなさん、ご迷惑をかけてごめんなさい。ちーちゃんは悪い人ではないのだけど・・そのう・・ちょっとみなさんとは物事のとらえ方が違うと言うか・・。」


「名前、それを変人奇人というのだ。」


一さんもきつい事を言うのね・・。


「昔はとにかく、名字はもううちの子なんだから誰であろうと勝手は許さない!」


「もちろんだ!」


いつも意見の合わないお兄さん方がしっかりタッグを組んだけど・・・はっきり言ってちーちゃんは手ごわいですよ。


休み時間が終り教室へ戻りかけた時に・・


「なあ、名前。」


「どうしたの、平助くん?」


「俺・・さっきはあいつに圧倒されたけど・・今度は負けないから、総司たちばかりじゃなくて俺も頼ってくれよ。」


「平助くん?」


「俺・・兄貴たちがみんなすごいからどうしても弱っちく見えるだろ。上の二人は仕方がないけど、一つしか違わないあの二人には負けたくないんだ。特におまえの事・・・。」


「私の事って。」


「だからさ・・・そう風間から守ってやる事だよ。」


「そうだよな・・・ははは・・私ったら・・何かドキっとした。あ、鐘が鳴ってるよ・・急ごう。」


平助くんの言葉に過剰反応した事が恥ずかしくてそのまま教室に走ってしまった・・もちろん、授業中も平助くんを見ることが出来なかった・・。


何とか授業中に気持ちを整理していると


「名字、迎えに来たよ。」


総司さんが教室の入り口で手を振っている。


後ろにはニコニコしている一さん。


当然学校で人気を二分する二人の登場に女の子たちの目もキラキラで、私の方を見て何か囁いていた。


お兄さん達をお待たせしても申し訳ないんで、急ぎ鞄を持って教室を出ようとした時だった。


「待てよ名前。」


平助くんは私の鞄を奪い、先にいる二人を睨みつけた。


「何の真似かな、平助。」


「あのさ、名前は俺が守るって決めたから・・二人とも手を出すなよ。」


「なにそれ、朝はあいつのいい様にされて指銜えてたくせにさ・・ね、一くん。」


「ああ、平助・・無理はよせ。」


「だから・・・だから今回こそは頑張りたいんだ。俺だって橘家の男なんだから・・。」


「橘家の男ね・・・面白いよ平助、じゃあそいつを見せて貰おうかな、一くんはどう?」


「いいだろう、チャンスを与えてやる・・だが、橘家と出すからには二度はないぞ。」


「分かってるよ、じゃあ、行くぞ名前。」


「うん。」


何だかよく分からないけど真剣な顔の平助くんについて行くことにしました。


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