「名前ちゃん、調子はどう?」
「はい、だいぶ良くなりました。」
「総司、さっきから何度同じことを聞きに来るんだ・・五月蠅くて名前が寝られないではないか。」
「いいでしょ・・気になるんだもの。名前ちゃんには近藤さんを助けて貰った恩があるんだよ・・本当なら僕が看病したいのに一くんが独占してさ・・。」
「あたりまえだ!名前の事は親御さんから頼まれているんだからな・・何人たりとも指一本触れさせん。」
「なにそれ・・でもさ、それなら一くんは名前ちゃんの親代わりなんだよね・・だったら手を出しちゃだめだからね。」
「もちろん、そのような下心などない。」
「だって・・名前ちゃんも苦労する・・じゃあね。」
「まったく、総司の奴は・・・ん?名前どうした?」
「別に・・。」
親代わり・・て・・・私はずっと斎藤さんのことを好きだったし、斎藤さんも同じ気持ちだと信じていたのに・・。
何だか悲しくなって布団を頭まで被って斎藤さんに背を向けてしまった。
それでも一向に何も言ってくれないし・・触れてもくれない斎藤さん・・やっぱり沖田さんの言う通りなんだろうか・・
どのくらい経っただろうか・・・いつの間にか寝てしまったみたい・・ん?とても背中が温かいけど・・
「そのままで聞いて欲しい。」
突然耳元で聞こえた斎藤さんの声にすっかり目が覚めてしまった。
「斎藤さん・・。」
「俺は今まで剣一筋生きていた・・・だから人付きあい・・特におなごという者にどう接していいかが分からなかった。だが、あんたと出会ってから・・・どうもおかしいのだ。
あんたの事でいつも頭がいっぱいになり、あんたと話したいし・・こうして触れてみたいと思ってしまう。それが悪い事ではないと思うのに、あんたの前ではそんな邪な気持ちを知られるのが怖くて・・つい素っ気ない態度を取ってしまうのだ。
すまない・・そんな俺の態度があんたを傷つけていたのだな・・許してくれ。
俺はあんたの背中に恐る恐る触れてみて、ようやく決心がついた・・これからはあんたにどう思われようと俺の気持ちのままに行動しようと思う。」
「では斎藤さんは私の親代わりではないのですね。」
「当たり前だ、俺はあんたを好いている・・だからこそ誰のも触れさせないし・・・本当は見せたくもないのだ・・許されるなら俺のこの腕の中に閉じ込めておきたい気分だ。」
その言葉が終わらないうちに身体の向きを変えられてくちびるを重ねられた。
その日を境に斎藤さんはまったく遠慮なく私に接するようになり、あろうことか別宅を構えてそこに私を押しこめてしまいました。
最初は驚いたけれど、この人なりの愛情だと思いそこで私は斎藤さんの来るのを楽しみにしているのです。
けして甘い言葉を言ってくれるわけではないけれど・・いいの・・ここに戻ってくれるから・・例え汗だくであろうと血だらけになろうとも。
動乱の
中で芽吹いた連理の枝
荒ぶる西の風に負けじと
※やがてやってくる西からの脅威をも二人ならば負けずに生きて行ける(蒼龍)斎藤雅号
(終わりとあとがき)