私、名前といいます。
島原の近くの甘味屋の娘なんです。
島原といえば、京一番の花街ですからね・・お姐さん方やそこへ通う殿方がお姐さんへのお土産にとお団子だのお饅頭だのと買って頂けるので結構繁盛しているんです。
中でもこの時期のものである水無月は、町の方からお公家様までご注文を頂いていました。
今日は三条様のお茶会用に水無月をお納めする為、お店を閉めて皆でお作りしていました。
「誰かおらぬか?」
勝手口から男の方の声が・・。
私は前掛け姿のままそちらへ向かうと、そこには爽やかな浅黄色の羽織姿の男の方が立っていました。
浅黄色の羽織と言えば・・あまり評判の良くない壬生狼と言われている新選組。
家の者からもけして関わるな言われていましたから、後ずさりしてしまいそうになりましたけれど・・その方の優しげな藍色の瞳に魅入ってしまったのです。
「休みの所をすまないが、巷で評判の水無月を少し分けてはくれまいか?」
「失礼ですが・・新選組に方でいらっしゃいますよね。」
「申し遅れてすまない。俺はあんたの言う通り新選組三番組組長 斎藤一と申す。
訳あってこちらの水無月を至急用意しなくてはならなくなり、一見の上大変不躾とは思うが・・きいてもらえまいか。」
壬生狼という二つ名から考えられない丁寧で控えめな方・・お武家でありながら町民の私に深々と挨拶されて心は動いたのだが・・・。
「申し訳ございません。今日お作りしました水無月はあるお公家様にすべてお納めすることになっておりまして・・。」
「そうなのか・・。それでは仕方あるまい・・手を止めさせて申し訳なかったな。」
あっさり引き上げて行く斎藤様に頭を下げて家の中へ入ろうとした時
「待って。」
声と共にぞくっとするほど冷たく光る刃が背中の方から首元にあてられた。
「おい、総司何をしている。」
「一くんが甘いからじゃない。水無月を持って帰らなければ、近藤さんの顔が立たないのに、あっさり引いちゃってさ。」
「だからと言って、この店にはこの店の事情があるのだろう・・無理は出来ない。」
「あの・・お武家様、先ずはお刀を引いて頂けませんか?これでは怖くてお話も出来ませんので。」
「そう・・分かったけど逃げないでよ。」
私が頷くと総司と呼ばれていた方は刀を納めて近づいてきた。
「僕は新選組一番組組長 沖田総司。きみは?」
「私は京極屋の娘で名前と申します。」
「名前ちゃんね。さっきは突然刀を向けてごめんね・・でもどうしてもきいて欲しかったんだよ。」
私は沖田様を諌めていた斎藤様がとてもすまなそうな表情を浮かべていたので
「はい、そのことはもう結構です。難しいとは思いますが・・お話だけはお伺いします。」
「本当にすまない・・。」