「これは…」

「きっと深い意味はないですよね。ただ食事に行こうっていうお誘いですよね」

「行くのか?」

「はい…多分。斎藤さんとはいつも仲良くしてますし、食事くらいよく考えると珍しくもないですし…」

「だったら、こんなに改まってメールする必要はねぇだろ」

「……?土方さんはこのメール、思うところがあるんです?」



すると土方さんは「こんなの…」と意味深なことをぽつりと呟いた後、黙りこんでしまった。

つられてわたしまで黙りこんでしまったせいで、その場はしーんと静まり返った。

やっぱりこんなこと相談するべきじゃなかったのかなと思って、わたしは慌てて話題を変えようと口を開こうとしたんだけど。



「…行くなよ」

「え?」



不意のことで上手く聞き取れなくて、土方さんに聞き返したわたし。

けれど次の瞬間、わたしの視界は急に真っ暗になって。

って、えっ、え?!

もしかしてわたし…今、土方さんに抱きしめられて…!



「あ、あのっ、土方さ、」

「好きだ」

「……!」

「名前のことが好きだ。斎藤と二人きりでなんて会うなよ」



嘘…嘘…

聞き間違えじゃなければ、わたし今、告白された?

それも、ずっと片想いしていた土方さんに?

これって夢?ううん、夢、じゃないみたい。



夢じゃないと認識した瞬間、わたしの顔はこれまでにないくらいに熱くなった。

きっと表面もこれまでにないくらいに真っ赤になっていること間違いなしで。

わ、わ、恥ずかしい。でも、ちゃんとお返事しなきゃいけないよね。

でもどうしよう、嬉しすぎて上手く話せそうにない。



「わ、わ、わた…わたしも…」

「……」



わたしが中々言葉を紡ぎ出せないでいても土方さんは待ってくれた。

けれどわたしを抱きしめる腕の力は徐々に強くなって、それだけでまた心臓の鼓動は早まるの。



「わたしも、土方さんのこと、ずっと好きでした…!」

「本当…か?」

「はい、不束ものですが、よろしくお願いします」



嘘…みたい。

わたし、本当に土方さんの彼女になっちゃった。

嬉しくて嬉しくて、もう顔は真っ赤。

けれど土方さんを見ても同じように真っ赤だったから、わたしばかりが恥ずかしがることはないのかなって、ちょっと嬉しくなった。

土方さんでもこんな顔することがあるんだって。そして土方さんにこんな顔をさせているのはわたしなんだって思うと堪らなく嬉しかった。



「とりあえず、名前。おまえは斎藤にさっきのメールの返事をしろ」



抱きしめられた腕が緩められ、土方さんにそんなことを言われ。

あれ?これって所謂ヤキモチってやつなのかな?なんてニヤニヤしていると、笑ってんじゃねぇと額をぺしりと叩かれてしまった。



"ごめんなさい。付き合っている人がいるので二人きりでは会えないです。また今度皆で飲みに行きましょうね!"



送信。



土方さんに内容を確認してもらってメールを送ると、ワンテンポ遅れて夜の海沿いの道にピロリンと電子音が鳴り響いた。

まさか近くに誰かいる…?とその方向を土方さんと一緒に向いてみた。

するとそこには…



「…逃げるよ。みんな。」

「うわっ!土方さん!!」

「やべ!怒られるぞ!」

「すみません!土方さん!!!」



今日来れなくなったはずの四人が、こちらの様子を伺っていた。

これってもしかしてもしかしなくても…

尾行されてた?

このデートって仕組まれてたこと?じゃあもしかしてさっきの斎藤さんのメールも?



「おーーーーまーーーーえーーーーらーーー!!!!!」



そんなことを考えていられたのも束の間、土方さんはものすごい形相になって沖田さん達を怒鳴ったから、わたしの意識もそっちに行ってしまった。

沖田さん達はなんとも早い逃げ足でその場を去ってしまって、不完全燃焼な土方さんの怒りは行き場をなくしたみたいだけど、



「ったく、あいつら…明日覚えてやがれ」

「まぁまぁ、いいじゃないですか。彼らのおかげで付き合えたようなものですし」

「…まぁな」

「わたしは今、土方さんの彼女になれてすっごく幸せですよ!」



後から思い直すとすごく恥ずかしい台詞だけど、伝えられる時に伝えておかないとね。

すると土方さんは「あんまり可愛いこと言うんじゃねぇよ」って言ったかと思うと、わたしの唇に触れるだけのキスをした。

わたしは吃驚して金魚みたいに口をパクパクとするけれど、土方さんは余裕そうに笑っていて。



「…っ!いきなりなんてずるい…!」

「キスくらいでそんなに赤くなってちゃ、これから俺と付き合って行くのは大変かもな」

「な、」



それって、それってどういう…



意味深なその台詞とこれからのことを考えると、上手くやっていけるのかなって不安になった。

けれど、わたしが土方さんを大好きでいる限り、きっと何があっても大丈夫なんだろうって、そんな風に思える。



「好きだ、名前…」



わたしが赤くなるのを楽しむように、またキスを一つ落とす土方さん。

リードされてばかりでちょっぴり悔しいけれど、幸せだし、まぁいっか。



でもその代わり、土方さんをわたししか見えないくらいに夢中にさせてあげますよ、なんてね。

心の中だけで言うならただでしょう?

まぁそれ以上にわたしのほうが既に彼に夢中なんだけれどね。



でも、それはそうと…



皆も土方さんも、今日は本当にありがとう。

これまでの人生の中で一番幸せな誕生日になりました。



明日は土方さんのコーヒーにプラスして、皆のところにもコーヒー持って行こうかな。









→あとがき


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