「最近どうだ、」
「最近どうだって、随分アバウトな質問ですね。仕事、楽しいですよ。周りは良い人達ばかりでいい会社に勤められたなぁって思います」
「ったく、おまえは口を開けば仕事の話かよ。そうじゃなくて、もっと他にあんだろ」
「…?他にって?」
「趣味とか、やりたいこととか、そうだな…おまえはまだ若いから恋愛の話とか」
「ふふ、若いからって、そんな言い方されるとなんだか土方さんがおじさんに見えちゃいます」
「るせぇ」
お料理が来るまでの間、土方さんの気遣いのおかげなのか穏やかに楽しく会話ができていた。
でもまさか土方さんの口から恋愛の話が聞けるなんて思わなかったから笑っちゃう。
「わたしは恋愛はまだ実らなさそう…ですね。そういう土方さんは恋愛に関してはどうなんですか?そろそろ身を落ち着けたい頃だと思いますけど」
「どういうことだ、俺はまだそんなに老けてるつもりはねぇよ」
「あら、他意はないんですよ」
「ったく、おまえも言うようになったじゃねぇか。知ってるだろうが付き合っている女はいねぇよ」
「それじゃあ気になっている人くらいはいるんじゃないですか?」
会話のついでにさらりと気になることを聞いてみる。
これで気になっている人がいるなんて言われちゃったらどうしよう。
それがわたしだったらいいななんて妄想するけれど、世の中そんなに甘くないから。
好きな人が自分を好きって、それはとってもすごいことだと思うの。
「気になってるやつ…か。それは教えられねぇな」
「えっ、どうしてですか?」
「どうしてもだ。それよりなんで俺の話ばかりになってんだよ、」
この話はおしまいだ、と上手いことはぐらかされてしまった。
もう、肝心なことは聞き出せなかったな。ま、知らなくてよかったって風にも捉えられるかもしれないけど。
だって、もしも土方さんに、他に気になっている人がいたとしたらショックじゃない。
わたしみたいな可愛くない女、土方さんが惚れてしまうほどの人に敵う可能性なんてゼロに等しいんだし。
土方さんのことを考えだすとまたドツボにハマりそうになったから、ダメダメって自分の心に喝を入れる。
せっかく誕生日を大好きな人に祝ってもらってるんだから楽しまなきゃ。
そうこうしているうちに料理が運ばれて来て、丁度いいタイミングだと思ったわたしは、この料理が美味しいだとかそんな話をした。
わたし、美味しいものと甘いものが大好きで、この料理は味付けに何の調味料を使っているのかなとか気になる人だから。
「このスープに使ってるのはフェンネル…かな、すごく美味しい」
「そんなことまで分かるのか?」
「合っているかは分かりませんけど料理が好きで、スパイスとかハーブは趣味で集めてるんです」
「へぇ、おまえが料理好きとはな。いい嫁になるんじゃねぇか?」
「そ、そうですかね?褒めても何も出ませんよ」
土方さんにいい嫁になるなんて優しい笑顔で褒められて、ちょっと…いや、かなり頬が熱くなった。
わたしだって女だし、いつかいいお嫁さんになりたいもん。その旦那さんは土方さんがいいなぁなんて妄想したり。
考えるだけならタダだもん。
いっそのこといつか土方さんに手料理を振舞って、胃袋からがっちり掴んじゃう大作戦…決行しようか。
そして、なんだかいい雰囲気のままお料理を食べ終えた頃、お店の灯りが少し暗くなった。
なんだろうと思って少しきょろきょろしていると、誕生日の歌のBGMが流れて来て、ウェイターさんがケーキを運んで来た。
わたしはまさかそんなサプライズがあるなんて思わなくって、驚きながら土方さんのほうを見やった。
そのケーキには"名前"と書かれたプレートもちゃんとあって、土方さんは「ロウソク、消せよ」と言った。
言われた通り、少し緊張してためらいがちにふーっとロウソクの火を吹き消せば、土方さんは「おめでとう、名前」ってすごく素敵な微笑みを浮かべてそう言ってくれて、
「ありがとうございます…今日は一生忘れない素敵な日になりました」
「大袈裟なやつだな」
わたしは嬉しくて嬉しくて、自分でもだらしないかなと思うほどにふにゃりと表情を緩ませて笑ってしまった。
土方さんは大袈裟だなって笑ったけど、大袈裟じゃないの。
わたしにとっては今日は一生忘れられない宝物になる。
四人が来られなくなって偶然とは言え、こんな素敵なお店で土方さんと二人きりにしてくれた沖田さん達に、わたしは心の中でお礼を言った。
*
「土方さん、今日はありがとうございました。とってもとっても楽しかったです。このネックレスも大切にしますね」
「あぁ、俺も楽しかったぜ」
「本当ですか?うふふ、よかったぁ」
なぁんて、ちょっと甘い雰囲気醸し出しているように思えるけれど。
お店を出たわたし達は、海沿いの道を少し距離を開けて歩いていた。
なんだかお店の雰囲気に呑まれていい感じに会話をしてしまったせいで、お店から出ると一気に照れくささが襲ってきたというかなんというか。
海沿いなんてロマンチックなシチュエーション。思い切って告白なんてしたくなっちゃうけれど、意気地なしのわたしには到底できそうもなかった。
このまま自宅まで何事もなくデートは終わるんだろうなと思っていると、ピロリンとまた電子音が鳴る。
今度も土方さんだろうと思ってわたしは確認しないでいると、どうやら今度は土方さんではなくわたしだったようだ。
携帯の画面を開いてみると、そこには"斎藤一"の文字。
わたしはなんだろうと思ってすぐにメールを開いてみた。
するとそこには。
"さやか。誕生日おめでとう。今日はいきなり予定が入ってしまい祝うことができなくてすまなかった。もしよかったら今度二人で会えないだろうか?"
今度二人で…って、え?どういうことだろう。
斎藤さんのことだから深い意味はないのかもしれないけれど…、いや、斎藤さんだからこそよく考えてこのメールを送っているはずで…。
「名前?どうかしたのか?」
メールを見たまま固まっているわたしに気がついた土方さんは、わたしの顔を覗きこんで少し心配そうな顔をしている。
どうすればいいのか分からなかったわたしは、筋違いかなと思いながらも土方さんに斎藤さんから来たメールの内容を伝えてみた。