「そこの店、少し見ていくか」
「へ?!」
さっきわたしがチラ見したアクセサリーショップを少しだけ通り過ぎたところで、土方さんはそんなことを言って立ち止まった。
土方さんがそこの店と言って指差す先には、さっきわたしがネックレスを見ていたお店。
もしかしてわたしがネックレスを見ていたことバレたの?と思ったけれど、ショーウィンドウを眺めていたのなんて一瞬だったしそんなわけないと思ったわたしは、素直にお店に入りたいと頷いた。
あのネックレス、自分へのご褒美に買ってもいいよね。
ご褒美と言っても特に何かしたわけじゃないけれど。
「いらっしゃいませ」
お店に入ると店員さんに早速声を掛けられ、何かお探しですか?とにこやかな表情で尋ねられる。
お目当てのネックレスが欲しいのもそうだけれど、お店の中には他にも目を引く可愛いアクセサリーがいっぱい並んでいて、あっちこっちと目が忙しい。
「自分用にネックレスでも買おうかなと思いまして」と店員さんに言ってみれば、それでしたらと色々なものを勧められた。
説明されているうちにあれもいいなこれもいいななんて迷っていれば「そんなに迷うのかよ」なんて土方さんはちょっと呆れたように笑っていた。
「だって、どれも可愛いんですもん。土方さんはどれが似合うと思いますか?」
「そうだな…俺はそういうのよく分かんねぇが、これがいいんじゃねぇか?」
土方さんがこれと指さしたのは、一番最初に見とれてしまったあのネックレス。
それじゃあもうこれにするしかないでしょうと思ったわたしは、「じゃあこれにしようかな」とすぐに決断してしまった。
自分で考えているとあれこれ悩んじゃうのに、土方さんにこれがいいと言われるとすぐに決められちゃう不思議。
店員さんにこれをくださいと言おうと思ってその方を向けば、それよりも先に土方さんが店員さんに声を掛けていた。
「あ、あの…」
「プレゼント、これでいいだろ」
「え、そんな」
「これが欲しかったんだろ?」
「それは…」
どうしてわたしがこれを欲しがっていたことを知っているんだろうと思ったけれど、ここは素直に甘えたほうがいいのかな…。
さっきはプレゼントを買う買わないで揉めちゃったけれど、こういう時に甘えないのは可愛くない女だって何かの本にも書いてあったし。
ありがとうございますと頭を下げると、素直になったじゃねぇかと頭をぽんっと軽く叩かれた。
すると店員さんに「かっこいい彼氏さんですね」と言われて何故か顔が熱くなる。
ここで彼氏じゃないんですと言うのも違う気がするしあえて訂正する気にもなれない。
でも土方さんはわたしとカップルと思われて迷惑なんじゃと気がついて、ちらりと顔色を伺ってみたけれど、土方さんまでどうしてだか頬が赤くなっている気がして。
わ、わ、なんだかレアなもの見ちゃったよ。
そうして土方さんにネックレスをプレゼントしてもらい、そのまま付けていくことにしたわたしは目に見えてご機嫌だった。
こんな可愛らしいネックレス、わたしにはちょっと似あってなかったかも…と不安になったけれど、
「に…に…にあ…似合っている」
「あ、あ、ありがとうございます」
土方さんにそう言ってもらえたから、そんな不安も一気に吹き飛んだかな。
でも好きな人にそう褒められると恥ずかしくて照れくさくて、また頬が熱くなった。
あぁ、もう。駄目だなわたし。
こんなの好きってバレバレじゃない。
慌てて頬をぺしぺしと叩いたわたしは、今度はどうしましょうかと土方さんに尋ねた。
今日はヒールだしこのまま街を歩き続けるのも辛いかも…、そう思っていた矢先に映画でも見に行くかなんて言われたから、
「いいですね!」
なんて勢い良く賛成してしまった。
もしかしてわたしがヒールなことに気がついて…?だとしたらやっぱり土方さんってすごいかも。
慣れてるのかな、やっぱり。女の人の扱い。
*
そしてわたし達は映画館まで行って、今話題になっている洋画を見て時間を過ごした。
まず映画館に来たところで何を見るかで揉めたことはここだけの秘密。
だって土方さんがおまえが見たいもの選べってしつこいんだもの。
わたしは土方さんと一緒ならなんでも楽しんで見れる自信があったし、わたしだけが見たいもので土方さんを付きあわせちゃ悪いなって思ったから。
結局、一番人気のその洋画を見るってことで落ち着いたんだけれどね。
ドリンクだけ買って場内に入ると、しばらくして照明が落とされて暗くなる。
暗闇の中でいつもではあまり体験しないほどの近い距離に土方さんがいるっていうだけで心臓ばくばく。
もう意識し過ぎて内容がちゃんと頭に入っているのかすら怪しかった。
そして二時間ちょっとの時間をどきどきしながら過ごした後は、お店を予約してあるとかで、なんだかお洒落な看板の下がったお店へ連れて行かれた。
いいのかな、こんな素敵なお店。
本当は土方さんのお家で飲み会ということだったからあまり気合いを入れたオシャレは疲れるかなと思っていたけれど、いつもより気合いを入れた服装をしてきてよかった。
そしてわたし達は夜景が見える席に通されて、お料理が来るまでの間は他愛もない会話をした。