待ちに待った日曜日。

わたしはいつもより何倍もおしゃれをして駅前の噴水広場へと向かっていた。

服を選んでいる時も、気合入れすぎだと思われないかなとか色々ごちゃごちゃと考えながらかなりの時間を浪費したけれど、二人きりではないとは言え好きな人と過ごすんだもの。

それくらいしょうがないよね。

服選びで長考するなんてわたしも存外乙女なところがあるものだと自分で自分を見直したり。



あ、そうそう。

今日の日が来るまでに思い出したんだけれど、今日はわたしの誕生日だったのね。

誕生日とこの飲み会の日が被ったのは何の偶然だかは分からないけれど、今日は思い出に残る日になったらいいなと心の中で念じる。



楽しみでスキップしそうになる足を落ち着かせながら待ち合わせ場所まで来れば、土方さんが一番初めに来ていたようだった。

斎藤さんが一番かと思っていたから意外だなと思いつつも、わたしは笑顔で挨拶が出来るように少し表情筋を動かしてから土方さんに歩み寄った。



「こんにちは、土方さん」

「あぁ、名前か。早いな」

「そういう土方さんこそ…って言ってももう時間ですけど。皆がまだだからそう思うのかな」



わ、わ、土方さんの私服だ…、カッコいい。

シンプルだけどオシャレなジャケットに細身のボトムス。何処かのモデルさんかと錯覚してしまうほどの抜群のスタイルはわたしの目のやり場を困らせた。

別に土方さんが裸でわたしの目の前に立っているわけではないでしょうに。

ちょっと照れくさくて俯いてしまうわたし。

あぁ、もう、馬鹿!こんな時こそ気を利かせて何か話さなきゃ行けないのに!



そうこうして沈黙してしまったわたし達の間に、ピロリンというシンプルな電子音が鳴る。

わたしの着信音と同じだったからわたしも携帯を確認するけれど、どうやら音が鳴ったのは土方さんの携帯のほうだった。

もしかして沖田さんとかかな?遅れるとかそんなメールかも…なんて思っていると、突然土方さんは「あぁ!?」ってこちらが吃驚してしまうような大きい声を出して。



「え?どうしました?土方さん。」

「あいつら…。」



あいつら…なんて意味深な呟きをした後、土方さんは何処かに電話を掛け始めた。

ちょっと、なんだか怖いお顔。眉間の皺がいつにも況して深いですけど…。



「あいつらこれなくなったらしい。」

「は?」

「だから、あいつら来ねえんだよ。…もともと来る気があったのかも怪しいがな。」



土方さんはしばらく携帯電話を耳に当てていたけれど、どうやら呼び出したい相手は電話に出なかったらしい。

ちょっと乱暴に携帯電話をポケットに突っ込んだ後、土方さんは"どうする?"ってわたしに聞いて来た。



「誕生日に過ごす相手がいないなら付き合ってやるが?」

「もうっ!そんな、人を可哀想な人みたいに!」



女の子をそんなロマンもへったくれもない誘い方するなんて、土方さんってばわたしを怒らせに来たのですか、…なんて言葉が喉まで出かかったけれど、すんでのところで飲み込んだ。

だって今、土方さん『誕生日』って言ったから。

今日の日をわざわざ皆が選んでくれたのはわたしの誕生日だったからなんだって、そう思ったの。

沖田さん達は来れなくなったみたいだけど、この機会を無駄にしちゃいけないなって。



「それじゃあ…お願いします。このまま帰っても寂しいだけなんで」



わたしにしては素直にお願いできたほうだと思う。

ぺこりと頭を軽く下げると、土方さんは「それじゃあ適当に歩くか」と歩き出そうとする。

そこでまたピロリンと電子音が鳴って、土方さんは携帯を取り出した。

メールを読み終わってまた少し乱暴に携帯をポケットに突っ込んだのを見ると、あの四人の中の誰かからなんだろうなってことは察しがついたけれどね。



「名前、何か欲しい物ねぇのか」

「はい?」



歩き出した土方さんに置いていかれないように隣を付いて行けば、突然にそんなことを言われた。

何か欲しい物はないのかって、そりゃあわたしもまだ20代の女だし欲しい物はたくさんあるけれど…どうしてそんなことを聞かれるんだろう?



「せっかくの誕生日だ。なんか買ってやるよ」

「えぇ?!そ、そんな…いただけません!」

「俺が買うって言ってんだよ」

「いや、そんなわけには行きませんってば」



土方さんがわたしにプレゼントを?嬉しいけれどそんなの申し訳ないもん。

だって土方さんはわたしの上司で恋人でもなんでもなくて、物を贈ってもらう義理なんてどこにもなくて…。

けれど土方さんも一歩も引く気はないのか、わたしのプレゼントを買う買わないの押し問答は軽く数分続いて。



「おまえもしつこい女だな、俺が買うって言ってんだから素直に貰っとけってんだよ」

「で、でも…」

「とにかく、おまえがなんと言おうと何か買うことは決まりだ。何処に行きたいんだ」

「そ、それじゃあ…雑貨屋さんに」



どうしても買うと土方さんが引かないものだから、わたしはありきたりなお店を上げて納得することにした。

雑貨くらいなら買って貰ってもそんなには土方さんの負担にはならないだろうし。

うん、我ながら無難な選択ができたと思う。



そうして雑貨屋さんに行くことが決まったわたし達は、目的の場所までまた歩き出した。

その途中でアクセサリーショップのショーウィンドウにわたし好みの可愛いネックレスが飾ってあるのが目に入ってちょっと魅入ってしまったけれど、すぐに顔を背けて前を向いた。


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