「土方さんはいつも仕事が終わったら何をしているんですか?」

「どうした、藪から棒に」

「いえ、土方さんって仕事以外に何かしているところが想像付かなくって」

「はっ、家でまで仕事してたまるかよ。おまえは俺のことなんだと思ってやがる」



駅まで歩く道すがらに、何を話せばいいか分からなくてありきたりなことを聞けば、どうしてだか土方さんの笑いを誘ってしまったようだった。

笑いというか苦笑のように思えなくもなかったけれど。

頭をコツンと突かれてその部分がじんわりと熱を持った。

恥ずかしい。ドキドキする。

しっかりしていてクールな人なのに、時々見せる優しかったり意地悪だったりする部分にわたしの心臓はどっきんどっきんと煩く脈打って。

色んな顔を知れば知るほどに好きになって行く。なんてずるい人なんだろう。



「そうだな、仕事が終わったら適当に飯食って風呂に入って…煙草吸って、寝る。こんな感じだな」

「わぁ…それはなんというか」



真面目な顔でわたしのくだらない質問に答えてくれた土方さんだけど、思わず味気ない毎日ですねと言ってしまいそうになった。

喉まで出かかった言葉を誤魔化すためにコホンと一つ咳払い。

土方さん…モテそうなのに彼女とかいないのかな。

それくらいサラッと聞けないところがわたしの弱いところだなぁ。

今だってサラッと、ご飯食べに行きませんかくらい言えたらいいのに。あ、そういえば今日はお昼休みの四人は早々に退社して飲みに行くとか言ってたっけ。

でもわたしは好きな人だからこそきっかけとかないと誘えないんだよね。



色々なことを考えてさっきの"わぁ…それはなんというか"から言葉を発しなくなったわたしは黙りを決め込んだ風になってしまって、「言葉も失うほど俺の一日が味気ないって言いたいのか?」なんて、ちょっと怪訝な顔をされた。

あぁ、馬鹿馬鹿!また変なやつって思われちゃったかも。



「いえ、そういうことじゃ…。ご飯作ってくれる彼女はいないのかなぁって思っちゃっただけで」

「悪かったな。生憎、今は仕事が忙しくてそれどころじゃねぇよ」



あぁ、またやっちゃった!

わたしはただ彼女がいるのか知りたかっただけなのに、これじゃあまるで土方さんに皮肉を言っているみたいじゃない。

"ご飯作ってくれる彼女もいないなんて可哀想、ぷぷっ"みたいな意味で言ったと思われてるよ、これ。

自分で言っておいて自己嫌悪が激しくなったわたしは、土方さんの隣から少し下がってとぼとぼという音がぴったりの速さで歩いた。

けれど、土方さんはわたしの歩くスピードが落ちたことにすぐに気がついて、わたしに歩幅を合わせてくれるのだから…。もう、本当にこの人は。

わたし、やっぱり土方さんが好きだ。



「ち、違います!土方さん、モテそうなのに意外だなって思っただけです」

「褒めても何もでねぇぞ」

「もう、可愛くない」

「男が可愛くってどうする」



ちょっと険悪になりかけたか?と思ったけどそうでもなかったみたいで。土方さんはフッと呼吸をするついでのように小さく笑ってくれた。

よかった。今日は何事もなく家まで帰れそう。

別に一緒に帰る日はいつも何かあるというわけじゃないけれどね。













次の日、いつものように出勤したわたしは、始業前にコーヒーでも飲もうかと給湯室に行ったところで原田さんと平助くんに話しかけられた。



「よぉ、名前!」

「今日も早いな」

「おはようございます、原田さんに平助くん。コーヒー飲みますか?」

「いや、俺達はいいよ。それより」

「それよりさ!名前、今週末暇?」



彼らと給湯室で会ったのは偶然ではなく、わたしに話があったみたいだった。

なんだろうと思って内容を聞いてみれば、今週末に土方さんの家で飲み会をしないかという…

なんとわたし得な企画!!!



「もちろん参加します、させてください!」

「よし、ほんじゃ決まりだな」

「待ち合わせ場所は決まったらメールするから!」

「はい、お願いします!」



引かれないかなというほどにノリノリでその話を承諾したわたしは、今にも口笛を吹き出してしまいそうなほどのテンションで自分のデスクまで戻った。

嘘嘘、いいの?わたしが土方さんのお宅にお邪魔してお酒だなんて…。

土方さん沖田さん斎藤さん原田さん平助くんの仲良し五人組の飲み会にわたしが誘われたことが些か疑問ではあるけれど、こんなおいしい機会またとない!



思わぬところで週末の楽しみができた私は、その後の仕事をいつもからは考えられないようなスピードでこなした。

あぁ、楽しみだな。今週末。


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