「……名前」

「………」

「名前、入るよ」

「なりません。名前はただいまお尻を探す旅に出ております故」



お尻を探す旅って何?と思いながらも、これ以上機嫌を損ねる気になれない沖田は、名前の部屋の前に座り込んだ。

これはよっぽどお尻のことが気になっているようだ。

確かに、普段袴で過ごしている名前だが、その体は男だと言われても違和感のない細さで。



「どうしてそんなにお尻が気になるの?」

「名前はお尻なんでどうでもよぉございます。気にしてらっしゃるのは総司さんです」

「僕だって気にしてないって何度も言ってるでしょ。それに、どうでもいいなら僕が大きいお尻が好きだって言っても気にしなくていいじゃない」

「……総司さんはやっぱり馬鹿です、大馬鹿です。名前はお尻が大きいほうが好きだと言ったのが総司さん以外の方だったらここまで気にしません」

「……名前」



総司は名前の言葉に、悪かったなと思うと同時に愛しさが込み上げた。

深く解釈すれば、『あなたのことが好きだからこそお尻が気になるの』と言われいるのと同じだからだ。



名前の健気さに内心グッと来た沖田。

だが、よくよく考え直してみて欲しい。

これ、すべてお尻の話なのである。



スパンッ



「な、入ってはなりませんと言ったはずです!」

「ごめん、やっぱり僕が悪かった…かも」

「……いえ、わたしもちょっとお尻のことで怒りすぎました」

「泣かせちゃうほど嫌だったんだね、ごめんね」

「そんな、お尻が小さいわたしが悪いんです」

「お尻が小さくてもいいじゃない。本当は僕、お尻がない子が好きだし」

「総司さん…」

「名前、」



割と素直に謝れたな、なんて胸を撫で下ろした沖田。

このまま仲直りに接吻の一つでもすれば解決か、なんて思って顔を近づけようとするが、

今の名前は突飛な思考になっていた。

また俯いて膝の上に握っていた拳を震わせたかと思うと、沖田を突き飛ばして立ちあがった。



「うわっ?!」

「お尻がない子なんて、さすがのわたしも人外にはなれません!どれだけわたしのことを馬鹿にすれば済むんですか!」

「はっ?」

「もう総司さんなんて本当に知らない!」

「待って!名前!」



少し考えれば分かるはずだ、お尻のない子は本当にお尻がないという人外生物のことを指したのではなく、小さいという意味で言っていたということが。

けれどお尻のことで付いた名前の傷は深く、もう何もかもを悪い風にしか捉えられなくなっていた。



バタバタ、ドタドタ



「待ってって!誤解だから!お尻の小さい子って意味で言ったんだよ!」

「もう何を言われても信じません!総司さんはお尻のない子を見つければいいじゃないですか!」

「そんなの世界中どこを探したっていないから!逃げないで僕の話を聞いて!」



屯所中をバタバタと駆けずり回り、最早鬼ごっこ状態になっていた。

なんだなんだと、広間にいた面々も事態に気が付きぞろぞろと部屋から出て来る。



「…はぁはぁ、意外とすばしっこいね、きみ」

「総司さん、しつこいです。わたしのお尻なんてもう放っておいてください」

「無理、きみのおしr…じゃなくてきみのことが好きだから」

「……本当ですか?」

「本当だよ」



広間組が心配して少し離れたところから見守る中、やっと名前をつかまえた沖田は後ろから名前を抱きしめた。

しばらくは身を捩じらせ逃げようとしている名前だったが、沖田の真剣さを感じ取った名前は少し大人しくなって身を委ね、段々なんだか甘い雰囲気に…なるのはまだ難しいか。

だが、何度も言うが喧嘩の原因はただのお尻なのである。



「わたしでも…いいんですか。お尻、大きくないですけど」

「お尻なんて関係ないよ。僕はありのままの名前ちゃんが好き」

「お尻ありますけど、いいんですか…?」

「それに関しては完全にきみの勘違いだから」



名前は疑いの眼差しを沖田に向けた。

乙女心というものは繊細で、一度傷付いた心は疑り深くなる。

そんなこと言っておいてどうせ建前なんでしょ?と言わんばかりの目で沖田のことを睨む睨む。



「分かりました。じゃあ、総司さんを信じますね」



しばらくじっと沖田を睨んでいた名前も、沖田をやっと信じることができたのかにっこりと笑った。

恋する乙女は傷付きやすくもあるが、好きな人の言葉なら立ち直るのもまた早い、ということか。



でもこれで一件落着仲直り。

二人はいつものように幸せそうな笑顔を交わしながらどちらからともなく口づけた。

心を許してなんでも言い合えるような相手にだからこそ言ってはいけないことがあり、または言われたくない言葉もあるのだということを学んだ二人だった。



「なんだ、ちゃんと仲直りしてんじゃん」

「あんな人目に付く場所でひっつきやがって」

「本当だぜ、見せつけてくれるな、総司のやつ」

「………(くだらない)」



遠くからそんな二人を見守る三人と相変わらずお茶を啜る斎藤。

この後、やっと騒ぎに気が付いて部屋から出て来た土方に怒鳴られたことはまた別の話。

でも、土方に怒鳴られながらも笑顔で楽しそうに逃げ出した二人を見る限り、また喧嘩することがあってもなんだかんだ大丈夫だろうと思う四人だった。



「どんな名前でも大好きだよ」

「わたしもどんな総司さんでも大好きです!」







―ありのままのきみが好き―



…なんていい感じに纏めたが、これはただのお尻の話なのである。


→感謝


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