夕飯も終えて辺りが暗くなった頃、私は持ってきた大きな袋を片手に、外の広場へ部員たちと集まっていた。

毎年恒例の肝試しをする為だ。
此処は外灯があってそんなに怖くないけれど、ルートになっているのは山道で外灯がなくて足場が悪い。
お化け役は本気で脅かしに来るし、初体験した去年はビビリすぎて大変だった。
だけど、今年は…ふふふふんと鼻歌なんか出てしまう。

「鼻歌なんか歌っちゃって。名前だけ狡い」

口を尖らせた横の千鶴が、不満そうに私見ていた。

『ふふふふ。じゃんけんで勝ったんだもん。あ〜ぁ、お化け役じゃつまらないなぁ』

そう、今年はじゃんけんで見事に勝ってお化け役が出来るんだもん。
脅かす方に回れた私は頗る機嫌が良かった。機嫌が良いのはそれだけじゃないんだけど。

「千鶴ちゃん、名前ちゃんがお化け役でよかったじゃない」

がんばって!なんて千鶴の背中を叩いていると、近くに居た沖田君が急に会話に入ってきた。
私がお化け役で良かったとは、何故ですか?とばかりに沖田君を見上げると、呆れたように溜息を吐かれた。
何?なんでそんなに呆れてしまわれているの?普通にヘコむんだけど。

「だって、去年酷かったじゃない。名前ちゃんの凄い悲鳴」

「確かに、そのせいで前後の奴は何処にお化けが居るか分かっちまったって言ってたよな!」

『そっ、そんな酷かったかな』

「酷かったのは否定できねぇけど、今年は頑張ろうな!一緒に脅かそうぜ」

「お化け役が悲鳴上げて自分の居場所知らせないでよね。つまらないから」

平助君は、相変わらず優しく励ましてくれるのに、沖田君は相変わらずの沖田節で若干ヘコむ。
へこんでいた私は手を急に掴まれて目を痛いほど開いた。
だってへ、へ、へ、平助君!私の手を掴んで!!!

「名前、準備だ。行くぞ」

そう言って、繋いだ手を離すこと無く、ずんずん前へと進む平助くんに足を縺れさせながらも、付いていく。
そんな必死な私の背中に「頑張ってね」と楽しそうな沖田君の声。
ありゃ、悲鳴でも上げて失敗するのを楽しみにしているような応援にしか聞こえない。
どうせ、それをネタにまたまたからかわれる事を思うと、肺に空気を一杯取り込んで息を止めると、ぐっと気合を入れた。

『へ、平助君!手、手』

「あっ!わりぃ!つい」

『ううん、いいの。でも、そろそろ懐中電灯付けないと…外灯がなくなるね』

足場の悪い、両側を木に囲まれた砂利道が伸びる先を見ると、後二つ灯りが見えるだけでその先は真っ暗だ。
ポケットに入れた懐中電灯を引っ張り出す手が心なしか震えている。と言うか震えすぎだろ、自分。
隠すように両手でぐっと力を入れた。
私お化けの類は大の苦手なんです。
少し先を歩く平助君の背中だけを見つめて、大丈夫だと言い聞かせた。
少し歩いて、外灯も全く無い場所まで来た私はプチパニックに陥っていた。
だって、闇いし。さっきから、何か鳴いてるんだよ…なに?動物?シカ?猪?って鳴くのかしら。
そんなことより、この暗闇に益々怖くなる効果音にいつの間にか、かたかた両手が小刻みに震えていた私は半べそ状態だ。

「なぁ、名前…お前震えてねぇ?」

『えっ!全然!』

「嘘付け…懐中電灯の灯りが超揺れてる」

歩いているから揺れるだろうに、それ以上の不自然な揺れ方に平助君がぶっと噴いだした。
確かにさ、懐中電灯を持つ手を両手にして押さえても、コントかってぐらい震えまくっているけどさ…
笑うこと無いじゃない!怖いんだからっ!
むっとして膨れた私だけど次の瞬間、違う震えが来てしまった。

「怖いなら怖いって言えよな。こうしていれば少しはマシだろ?」

そう言って、私の手を掴んだ。
へ、平助さん…そ、それって所謂恋人繋ぎじゃないですか!
怖さも吹っ飛ぶぐらい平助君の温もりが指の一本一本まで感じれて、違う意味でパニックを起こした私は、平助君のお陰でお化けが怖いとか、そんなことはどこかへすっ飛んでしまった。
そのおかげで、所定の位置まで無事着くことが出来た。

「あー!わくわくしてきたなぁ!」

『へへへ。平助君すっごい楽しそう』

「誰かを脅かすなんてわくわくするに決まってんだろ」

玩具を与えられた子供みたいにキラキラした笑顔の平助くんに、見惚れてしまった。
なんでも、全力で楽しもうする彼と居たら私まで笑顔になれる。
そんな不思議な力を持った平助君とお化け役が出来るなんて幸せだ。
そんな平助君に見惚れていると、木ノ葉が急に大きく揺れて、吃驚した私は悲鳴を上げそうになったんだけど…

口元を何かで覆われて声を発せなかった。
その何かが、平助君の手だと理解するのに時間は要さなかった。
「鳥だろ。また悲鳴あげたらバレちまうよ」呆れたような、でも優しい音色の彼の声が耳元で聞こえて、体中がぼっと熱くなった。

だってね、冷静になってみたら…口元を抑えた反対の手が後ろから回されて肩を掴まれている所為で背中にぴったり平助君の温もりが!
温もりが感じられるんです!

『んんんんー!』

「なんだ?」

口から手を離してくれたのはいけど、覗き込まれて思いの外近い距離に眩暈がした。かと思ったら、次の瞬間ちゅっと唇に触れた温もりに思考が停止した私は、「ご、ごめん」と慌てて離れた平助君に眉根を寄せた。

チュ、チュ、チュウされたあああ!

で、でもチュウされて、謝られた?
嫌じゃないのに!寧ろ、チュウしたってことは私のこと好きでいてくれたのかとこの短時間でフル回転させた頭で喜んだのに!ヌカ喜びさすな!ボケ!
何かがブチッと切れた音がした私は勢い良く立ち上がった。

『平助君のバカっ!嬉しかったのに謝るな!!』

「え、へ?嬉しいって!」

『嬉しいもんは嬉しいんじゃ!』

多分普段のキャラでは無くなった私はブチ切れて、しゃがんで居る平助君に罵声を浴びせると次の瞬間がばっと力強く抱きしめられていた。

「これって名前も俺と同じ気持ちだって思っていいんだよな!」

『え?私と同じ?平助君も?』

「そうだよ!大好きだ!」

ぎゅっと抱きしめられて、すっごく嬉しそうな声で大好きだなんて言われてしまった私は、ビビリで怖がりな自分も悪くないと思った。
だって、悲鳴上げそうにならなかったらこうはならなかったでしょ?きっと。


(ねぇ、いつまで抱き合ってるの?)
(え?/へ?)
(自分達の世界に入っちゃって脅かすの忘れてるなんて。これは皆に報告しなくちゃね)
(総司待て!/沖田君待ってえ!)



終―


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