私の世話係は、とても親切で明るくて元気で無邪気で…
とても笑顔の似合う人だった。
無事初日から三日が過ぎ、慣れては無い環境にも、少しだけ冷静で居られるようになってきた。
そして今日は、私のための歓迎会だと近くの居酒屋へと連れてきてもらったのだ。
「名前ちゃん、グラス空だけど、何飲む?」
「あ、えっと。じゃあ同じもので。」
隣の千鶴先輩は、私のグラスが空いたのを見計らって声をかけてきた。
それから周りの人にも声を掛けて、最後に千鶴先輩の隣の藤堂さんにも聞くと、素早く店員さんを呼び注文をしている。
隣にいるのが居た堪れなくなるほどの気の利いた先輩に、チラっと盗み見た。
千鶴先輩は、その向こう隣に座っている藤堂さんと頬を緩めて何やら楽しそうに話している。
藤堂さんも、楽しそう…
気の利いた可愛らしい先輩はキラキラして素敵で。
そうだよね、藤堂さんも、きっと千鶴先輩みたいな人がいいに決まっている。
同期だと言っていた二人は仲良く話している所をまだ、入社して三日という短さでも何度も見てきた。
その短期間でも、二人の仲が良い空気が醸し出されていて、正直見ていて辛かった。
「藤堂君と雪村さんは相変わらず仲がいいね」なんて何処からか上がった声も相まって私の中に芽生えた小さな黒いものに顔を顰めた。
一目惚れなんて今でも信じられないんだ。
藤堂さんのことなんて、これっぽっちも知らないし…
だけど、井上課長から紹介された藤堂さんの顔を見た時、身体中が心臓になったみたいにドクドク脈打って熱くて…
胸に広がったのは今まで体験したことのないぐらいの……
なんだろう、ときめき?だったのかな。
甘いカクテルに口を付けながらぼんやりと想い返して居ると、「なっ、なんだよ」と焦った声の藤堂さん。
横を見るといつの間にかトイレから帰ってきた千鶴先輩が藤堂さんを私の方へと追いやっていて。
お尻でずりずり私の横まで移動してきた彼に、「私トイレ近いから通路側ね」とにこりと笑った。
千鶴先輩の、その笑顔に惚れちゃう人は一杯居ると思うんです。
だから藤堂さんにそんなそんな可愛い笑顔を向けないで下さい。
誰にだか分からない懇願をしていた私は、もっと重大なことを見落としていた。
スカートから出た足にコツンと当たった硬い物に視線を向けた。
当たっていたものは藤堂さんの足。
そこに釘付けで固まった私に、「あっ!わりぃっ!」と慌てた彼の声の近さにも、身体は熱くなってしまう。
「あっ、否」
「ごめんな、千鶴が押しすぎんだよ」
そう言って離れた足に名残惜しさを感じて…
「いえ、嬉しいかったです」
思わず出てしまった心の声にハッとして、視線を藤堂さんに向けると、顔を真っ赤にしてパクパクしている。
私はなんてことをっ!
お酒が入っているから大胆な事を口走ってしまったと後悔したけど…
それより何より、藤堂さんのこんな顔が見れて…
「ぶっ!」
「なっなんだよっ」
「だって、口パクパク!鯉みたい」
お腹を抑えて笑い出した私に罰が悪そうに「だってよ」なんて呟いた藤堂さんの顔の赤さが可愛らしくて、緩む口端。
年上なのに、なんだか可愛くみえてしまう彼の一面に触れて。
仕事では頼りになるのにと、そのギャップに段々大きくなるこの気持ちが止まることはないと実感した。
私は彼を好きだというこの気持ちを大事にしたいと思った。