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ぽつぽつと降り注ぐ雨。


いつもなら煩わしいと思うそれは。


その日だけは違って見えた。










―雨がくれたもの―























 「鴨の親子・・。」





学校からの帰り道。
いつもの橋を渡っていると川に鴨の親子がいるのが見えた。
この辺は今雨が降り出したところだが、上流では前から降っていたのであろう、川は増水していた。




 「大丈夫かなぁ。」




橋から身を乗り出して鴨の親子の行方を見ていた。
いきなりの雨に傘もなかったけれど。
どうせ家に帰るだけだし。





 「早く陸に上がりなよ〜。」




泳いでいる鴨達を見て呟いた。
この声が届くわけはないんだけど。




橋の欄干に手をついて見ていたけれど、鴨達はすいすいと橋の下の方へ泳いでいく。




 「あー・・・見えなくなる。」




背伸びをして覗き込んだ。
段々鴨達が見えなくなると思っていた時。



私の世界が激しく動いた。






 「何をしている!!!」





 「きゃあ!」





ぐるんと後ろへ引っ張られ、倒れる!と思ったけれどいつになっても背中に衝撃はない。
それどころか、何かに支えられているみたいで。






 「こんなところから飛び降りたらどうなるかわかっているのか?!」





 「えっ・・あの・・。」





目を開けるとすぐ近くに綺麗な顔立ち。





 「斎藤君・・?」




斎「何があったのかは知らないが、こんなところから飛び降りるなど・・。」




同じクラスの斎藤君だった。
あまり話したことはないけれど、女子からすごい人気だから知っている。
いつも冷静な彼がこんなに慌てることがあるんだとどこか他人事に見ている自分がいた。





 「あ・・あの・・。飛び降りるって何??」




斎「あんたが橋から身を乗り出していたんだろう??」





 「あのね・・鴨を見てたんだけど。」




斎「は・・?」




 「だから、鴨の親子を見ていたんだけど。ちょうど今橋の下へ泳いで行っちゃったからつい乗りだしちゃって。」





斎「・・・・・っ!?///」





ものすごい勘違いに気がついてくれたみたいで。
斎藤君は顔を真っ赤にしていた。



またまた珍しい表情が見れたと思う。





斎「そ・・その・・すまない。」




ぺこりと頭を下げる斎藤君に私は慌てて両手をふる。




 「いや、私もまぎらわしいことしてたよね?傘もささないで。」




斎「俺の早とちりだ。本当にすまない。」




そう言うと斎藤君は余程慌てていたのか、投げ捨ててあった鞄を拾い、さらに落ちていた傘を拾うとこちらへ歩いてきた。





斎「名字の家はこっちか?」




 「うん。」




斎「俺もそっちだ。送る。」




 「え!?いいよいいよ、もう近いんだし。」




斎「同じ方向だ。それに・・。」




斎藤君は私を傘の中に入れてくれる。





斎「いくら小雨でもずっとうたれていれば冷える。風邪をひいたらどうする?」




 「あ・・・はい。」




言われるがまま、私は斎藤君の隣に並んで歩き始めた。
特に会話をするようなこともなく。


家まで静かに歩いたのだった。

    

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