1 

※異世界設定


 「これは・・何?」



それは突然のことだった。



声をした方へ顔を向けるとそこには一人の女の子が立っていた。


たくさんの人が行き買う城下町でただその少女だけが異質な存在に見えた。
なんていうか・・似合わねぇんだよ、こんな場所に。


永「何って・・。クレープだよ、クレープ。お前知らないのか?」



店の前に立っている少女はおそらく俺より五つは年下だろう。
綺麗な黒い髪をまとめている髪飾りは派手ではないが見るからにいいものだ。
白っぽいワンピースを着ているがきっとその服もそれなりの値がするのだろう。




なのにクレープを知らないのか?
いや、だからこそ知らないのか?




永「食べたことないのか?」



 「いえ、クレープは食べたことありますが・・ナイフとフォークで食べるのでは?」




あ、こりゃ完璧いいところのお嬢さんだな。
こうやって紙に包まれたクレープにかぶりつくなんてことしたことないんだろう。



永「ほら、焼いてやるから食ってみな。俺からプレゼントだ。」



手早く生地を焼き、その上にクリームと果物をたくさんのせる。
包んで渡すと少女は困惑した表情を浮かべる。



永「思い切りガブッてやれ。うまいから。」



 「え!?そ・・そんなこと・・。」



永「いいから、な?」



俺におされるように彼女は小さく口を開きクレープをぱくっと食べた。



 「・・・おいしい。」



永「だろ?」




どこか遠くからきたお嬢さんなのか?
嬉しそうに食べるその顔はそこらへんの町娘と変わらないが醸し出す空気はどこか上品だ。




 「あの、ありがとう。お金・・。」



永「いいって。俺が勝手にやったんだ。」




 「でも・・。」



永「じゃあまた来てくれよ。次は買ってくれな?」


そんな調子で返すとその子はふわりと微笑んで去って行った。





そう。



俺の心を奪って・・・・・。

    

 ←short story
×