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――ガサッ


手からコンビニの袋が滑り落ちた。



さっきまでうるさいと叫びたくなるほど鳴り響いていたセミの声も。


ぴたりとはりついてくる汗だくのシャツの感覚も。


むせかえるような夏のにおいも。


まるで夢みたいに俺の中から感覚が消えた。


唯一機能していた感覚は視覚。


目の前の家から出てきたのは一君。
俺の目がおかしくなってなければ少し顔が赤い。


平「なんで・・一君が・・。」



あいつの家から出てきたんだよ。










―恋愛シンドローム―









物心ついた時からあいつのことが好きだった。
何で?って聞かれても俺にもよくわからない。
ただ、小さい頃から一緒で、離れるとか考えたこともなかった。
保育園に一緒に手をつないで通っていたころは俺のお嫁さんになってくれるって言ってたんだぜ?


ただ、小学校の高学年ぐらいから。
少し雲行きは怪しくなっていた。




 「ねぇねぇ、平助!」


平「なんだよ?」


 「隣のクラスの沖田君ってかっこいいよね!」


平「は?」



最初は総司。
今も同じ高校に通ってるし、今となっては名前にもそんな気持ちはさらさらないみたいだけど。

あいつから初めて他の男がかっこいいなんて言葉がでてきたんだ。

そして次は中学生の時。


 「平助平助ー!土方さんってめちゃめちゃ素敵じゃない!?」


これまた今も同じ高校の先輩にあたる土方さんに黄色い声援送ってた。
年上って素敵なんて俺にとって手も足も出ない難題をこいつは平気な顔してぶつけてきやがった。



そして高校生になった今。


 「斎藤君って落ち着いてて同い年とは思えないよねー。しかもイケメンだし。頭いいし。」


お気に入りは一君のようだった。
頭良いとこも素敵なんて言ってたから俺が苦手な勉強がんばりはじめたことこいつはわかってんのかなー?


でもいつでも共通することが一つ。
こいつはミーハーで、テレビの向こうの芸能人にキャーキャー騒いでいるようなもんなんだ。
自分から進んで告白するとかそういう雰囲気は全くなかった。
まぁ人懐こいから友達にはなってたけど。


それにしたって好きなやつの恋愛話きいている俺のポジションかなりきついんだぜ?

ただ、親友演じてれば何よりこいつの一番近くにいられた。それで安心してたんだ。


そう。俺は安心しきってた。
どっかで勘違いしてたんだ。
こいつの一番近くにいるのは俺だって。
いつか他の誰かのものになるなんて考えてもいなかった。

    

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