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 「大きくなったら、左之兄のお嫁さんになるの。いいでしょー?」

原「あぁ。いいぜ。」


そんなことを言いながら、手をつないで家まで帰ったのは確か保育園に通っていた時だった。
小学校にあがった左之兄が学校帰りに私を迎えに来てくれていたのだ。

家がお隣、両親同士が仲が良かった。
私たちが小さい頃から一緒にいることは必然だった。
優しくて、一緒にいてくれて、そんな左之兄が私は大好きだった。

いや・・
今でも。












原「おーい。名前!!!遅刻だぞ。」

 「わかってるってばー!」

玄関から声が聞こえる。
左之兄が迎えに来ることは小さい時から変わらない。
私が高校2年生になり、左之兄が3年生になっても昔のまま、彼は毎日迎えに来る。

原「俺がこないとお前学校毎日遅刻だもんな。」

そう言いながらポンポンと頭をたたく。
そんな仕草も変わらない。

ただ。


昔と違うのは。


 「あ!左之先輩だー!おはよーございます!」

 「左之先輩かっこいい・・。」

 「原田君!今日帰りにカラオケいこー。」


左之兄がもてまくるということ。
いや、小学校の高学年ぐらいから気配は感じていたけれど。いまや他校の生徒からも告白されている。

永「おっす!左之。名前ちゃん。」

原「おはよ、新八。」

 「おはようございます。新八さん。」

永「ほんと朝から騒がしいな。お前のその人気がなぜ俺に流れてこない・・。」

原「しらねぇよ。それに別に人気とかじゃなくてだな。」

永「聞いたか!?名前ちゃん!人気じゃないとか言ってるぜ?あんなに可愛い子たちから声かけられてるくせに・・。」

 「あはは・・。」

永倉さん、朝から元気だな。涙目だけど。

原「じゃ、名前、俺達こっちだから。また帰りな。」

 「うん。またね、左之兄。」


そう言って下駄箱で別れた。

毎朝一緒に登校し、帰りも一緒。
よく妬んだ先輩たちに囲まれることもあったが

原「こいつ、俺の妹みたいなもんだから。」

その一言で先輩達の態度は豹変。
可愛がられるようになった。

先輩達だけじゃない。
同じ学年の子や後輩からも

「名前さんは原田先輩と付き合ってるの!?」

と聞かれることはよくある。

やんわりと否定してきた。

今となっては私が左之兄の横にいることに誰も何も言わなくなった。


 「妹みたいなもん・・か。」

きっとそうなんだ。
小さい頃から横にいた私は。

左之兄にとっては妹みたいなもんでしかない。

現に左之兄の周りはよく大人っぽい先輩達がいる。
きっと綺麗なお姉さんが好きなんだろうな。

あぁ。
なんで私はもっと大人っぽくないんだろう。

    

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