あぁもう落ち着けよ俺。
やっちまったもんはしょうがねえ!後は腹くくって待つだけだ、男だろ!?
だけど…だけどなんで、今、送っちまったのかなぁ??
勢いは大事。だけど勢いだけじゃだめなこと、わかってたはずなのに。





―午前零時の憂鬱―







もとはといえばいつもより多く酒を飲んでしまったことが原因の一つでもある。
今日は特別ボーナスが出た左之さんに誘われて飲みに行ったんだけどそこに総司や一君もいて、まぁそれはいつものことだけど奢りだってこともあっていつもよりハイペースで飲んでたんだよな。酒が進めば自然とでるのは…恋愛関係の話で、学生時代からずっと同じ彼女の左之さんや一君はもう結婚を意識していたし、総司は逆にまだまだ遊びたいからと一人に絞るつもりはない発言に一君から説教されていた。すると総司が逃げとばかりに俺に話をふってきたのは自然の流れだったんだろう。左之さんも面白いと食いついてきたもんだから俺はついつい喋っちまったんだよな、名前のこと。

名前とは共通の友達がいて一度みんなでご飯を食べたことから連絡先を交換した。といっても特にタイプでもなかったし普通にいい子だなぐらいの認識だったんだよ。その後も友達何人かで集まったりして顔を合わせたんだけどたまにメールするぐらいの仲だった。だけど…。

『平助君、ご両親は?』
『俺?…あーいないんだよな。ってあれだから!暗くなるような話じゃねえから!!母親は結婚しないで俺を産んだんだけど体弱くてもう亡くなってて…って…悪い、俺は大丈夫なんだけどどうしてもみんなこの話すると暗くなっちまうから…。』
『平助君。』
『ん?』
『じゃあ大学も自分で?大変だったんだね。でもすごいね!!お母さんも自慢の息子だね。』


笑顔でそう言われたのは名前が初めてだったんだ。今まで親の話をすれば誰でも悲しそうな顔して、哀れんだ表情になって、それも仕方ないと思っていたけど俺は不幸だと思ったことはなかったし、自分で頑張れる最大限の努力はしてきたつもりだった。でもみんなが見てるのは親がいないってことだけで、俺のことはあまり見てくれていないんじゃないかって、きっと心のどこかで思ってたんだろうな。だから名前がすごいって、頑張ってるねって言ってくれて本当に嬉しかったんだ。大学時代の苦労話も名前に話すと尊敬の眼差しで聞いてくれたし社会人の愚痴もお互い笑いながらするようになって…気づけば友達抜きで二人で飲みに行くようになっていた。


「へえ。平助。いい女に出会ったじゃねえか。」
「うむ。俺もそう思う。」
「まあいい子そうだけどさ。いつ告白するの?そういう子は早くしないと誰かに持っていかれちゃうんじゃない?」


左之さんも一君も応援してくれて、総司も…と思いきや思わぬ言葉を投げられ俺は急に焦りを感じてしまったんだ。今ならわかる、酒のせいだ。
そして気づいたら左之さんや一君にアドバイスをもらいながらメールを打ち始めていて…まぁ、その、あれだよ。


メールで告白しちまったんだよ!
もう日付が変わりそうって時にな!!!


俺がメールを送信したのを見届けて飲み会は解散になった。家の近くの居酒屋だったから俺はそのまま歩いて帰ったんだけど、夜風にあたっているうちに冷静になっていった頭で考えだしたら体まで冷えた気がした。
だって俺、夜中によりにもよってメールで告白なんかしたんだぞ?内容はシンプル。好きです、付き合ってください。その前に数行色々書いた気もするけど正直記憶が曖昧というか思い出したくないと脳が拒否してる。…送信履歴見るのも怖い。
まあ、変なことは打ってないと思うけど告白にメールって…今時珍しくはないだろうけど男らしくなかったよな。引かれてたらどうしよう!?ポケットの中の携帯は一向に震える気配がなくてこれはもう寝てしまっているのか、返事を打つのを躊躇っているのかどちらかなんだろうけど今さら電話もできねえし…。


「う…あああああ!やっちまったぁぁぁ!!!」


自分の家についた途端、俺は頭を抱えてしゃがみこんだ。だって、俺終わってるじゃん。夜中にいきなりとか印象悪いだろ。罰ゲームとか思われてたらどうしよう、なんで俺もっと真剣に考えなかったんだよ!!!

時間を巻き戻したい…と掠れた声をこぼしてベッドに倒れこんだ瞬間。

「っ!!」

ポケットの携帯が震えたのを感じた。俺は急いで取り出して画面を見ると差出人は名前だった。どうやら起きていたらしい。

震える手でメールを開く。


――本当に?私でいいの?


たった一行だった。でも、俺のうじうじした心は一瞬にして消え去ったんだ。
俺は名前に電話をかけるとすぐに出てくれた。もしもし?と名前のかわいらしい声が震えてて泣いているのがわかる。

「名前!?なんで泣いてんだよ!?何かあったのか!?」
「ち…違うよ!平助君が!嬉しいこと言ってくれたからっ!!わっ…私でいいの!?」
「お前がいいんだよ!ごめん!いきなりメールなんてして…あの、本当だから!俺の本当の気持ちだからさ。その…よろしくお願いします。」
「はい。」
「あーーーーーもう!今すぐ会いに行っていいか!?」
「電車、もうないでしょ?」
「そっか…じゃあ明日は?」
「いいよ。」
「わかった!明日会いに行くから!!…ってかもう俺今日寝られる自信ねえよ〜。」
「じゃあ少し話そう?平助君の声、聞いていたい。」
「っ!!!お前!そういうこと言うなって!!!」


顔に熱が集中しているのがわかる。目の前に彼女がいなくて本当に良かったと思った。
俺たちはその後お互いが眠くなるまで話を続けた。

とりあえず、左之さんや一君、総司にはちゃんと紹介しなくちゃな。一応三人のおかげで付き合えたし。勢いだけじゃだめだと思ってたけど案外悪くねえかもなんて思いながら俺はベッドに沈んで名前の笑顔を思い出していた。





   end 

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