1 

一年に一度の聖なる夜。
恋人たちが、家族が、みんなが幸せに過ごす日なんだろ?

だから俺も…
いい加減覚悟決めろよ!



「…すけ!平助!?」

「あ、え?何?」

「何じゃなくて。何飲むの?コーヒー?紅茶?ココア?」

「こ…。」

「はいはい、ココアね。」

「いや、まだ答えてねえし!【こ】しか言ってねえじゃん!」

「お子様な平助はココアかと思ったんだけど。違う?」


間違ってない。その通りです。
だけど素直に合ってるなんて言えるかよ、お子様って言われておいて。
俺もう社会人三年目だぞ。

だけど名前は俺の気持ちが全部わかってるんだろう。
てきぱきと沸かしたお湯をマグカップに注いでいた。あいつは紅茶を飲むらしい。

「はいどうぞ。」

「ありがと。」

マグを受け取ってソファに座る。
名前の部屋は女のわりには物も少なくてシンプルだ。居心地は抜群にいい。
大学生の時からよくここに総司や一君と遊びに来てみんなで鍋したっけ。
社会人になったら一気に回数は減ったけれど今でも時々みんなで集まる。

だけど俺は…。
どうにかこうにか理由をつけて名前と会うようにしていた。二人でだ。
だって俺、大学生のときから名前のことが好きなんだ。
総司や一君は俺の気持ちに前から気づいてるけど当の本人は全く気付いてないんだろうな。
でも俺の努力は無駄にならなかった。
こまめに連絡をとって二人で会うようにしていたからか…クリスマス当日の今日も二人で過ごせているんだから。

これってさ…少しは期待できるのか?
少なくとも今こいつに彼氏はいなくて…さらにポジティブに考えれば俺のことも嫌いではないってことだよな??

俺はカバンに入っているプレゼントを一度確認してソファの下に置いた。
あいつは何を考えているのかぼーっとしながら紅茶を飲んでる。
本当はどこか出かけたいって思ったんだけど寒いから家がいいって言われて今に至っている。
だけど名前の手料理が食べられるみたいだから俺としてはラッキーだ。


「あのさ…。」

「食べ始めるの7時ぐらいでいい?チキン準備してるけど平助好き嫌いないよね?」

「ない!ないない!」

「ケーキもあるし、シャンパンもあるんだ〜。今日ぐらい思いきり食べたいよね。」

「おお。食え食え。」

「平助が準備したわけじゃないでしょー。」


くすくす笑いながら名前がテーブルにマグを置く。
何だろう。部屋に二人なんて今更珍しくもないのに…この緊張感。
俺だけなのかよ、こんなにそわそわしてんのは。


「平助?なんか変じゃない?どうしたの?」

「あーそのー…。」

「もしかして体調悪いとか?だったら無理しないで…。」

「違う違う!元気元気元気すぎ!!」

「…平助があほなのは今に始まったことじゃないけど…。」

「おい。」

「でもやっぱり変だよ?」


そう言って名前の手がすっと俺のほうへ伸びる。
その手は俺の額に着地した。
少しだけひんやりとして気持ちがいい…ってそうじゃなくて!
あれよあれよと頬の熱が上がるのを感じて俺は後ろに体をずらした。


「平助?」

「熱なんてねえから!そうじゃなくて!」

「…もう、何?どうしたの?楽しくない?」

「んなわけねえだろ!お前といて楽しくないわけが…。」

「わけが?」


さらに顔が熱くなる。
もうさ、ここまで言っちゃったらさ。…告白してるも同然じゃねえか。

俺は目の前のココアを一気飲みすると一度深呼吸をした。
その様子に名前は目を丸くしている。


「名前。」

「?」


カバンから綺麗にラッピングされたプレゼントを掴み名前の目の前に突き出した。


「好きだ。俺と…これからもずっと一緒にいてください!!!!」


そして訪れる沈黙。
あれ?
俺今…。

ああああああ!違う!
好きだっていうのは合ってるけど、付き合ってくださいって言いたかったんだよ!
一緒にいてくれって間違ってないけどなんかそれじゃ…。


「平助…付き合う通り過ぎてプロポーズみたいなんだけど…。」


その通り…ですね。


恥ずかしくてどこを見ていいかわからなかった俺だけど観念して名前を見た。


「え…。」

「な…何よ。」

「だってお前。顔真っ赤だぞ。」

「自分もでしょ!?」

「わ…わかってるよ。」

「あけていい?」

「ああ。」


丁寧に丁寧に名前はプレゼントを開けていく。
中身は悩みに悩んでネックレスだ。指輪はサイズがわかんねえし、そもそも付き合ってねえのに指輪って重いよなって思ったら俺にはネックレスぐらいしか思いつかなかった。
でも左之さんに相談してあるから変ってことはないはずだ。


「可愛い…。」

「良かった。」

「指輪かと思ったよ…プロポーズみたいだったから。」

「いや、さっきのはその間違いで、あー間違いじゃねえけどその…。」

「平助やっと言ってくれたんだもん。」

「は?」

「ずっと待ってたのにさ。大学生の時から。」

「はあああ!?」


何だよそれ。お前も俺のこと…。
ってか待ってたってそれはつまり…。

「俺がお前のこと好きって…気づいていたのかよ。」

「うん。でも言ってもらいたいから待ってたの。」

「お前なぁ…。」


なんだか一気に力がぬけてずるずるとソファに体を預ける。
そんな俺の様子を名前は笑ってみていた。たちわりい。


「でもよかった。サンタさんがプレゼントくれたんだわ。」

「サンタ?」

「今年は平助が告白してくれますようにってお願いしてたの。」

「…じゃあ来年からは俺がサンタになってやるよ。」

「ふふ。おいしい御飯作って待ってるね。」

「おう。」


うまくネックレスをつけられない名前からネックレスをとりあげてつけてやる。
胸元にきらりと光るそれが俺たちの思いがつながったことを示してくれているようで。


「メリークリスマス。名前。さっきのはその…勢いだったけどさ。ちゃんとまた言うから…ずっと一緒にいてくれよ。」

「うん。一緒にいようね。」


そう言ってどちらからともなく近づいてキスをした。


俺にもサンタがプレゼントをくれたらしい。
これから毎日幸せな時間が過ごせるんだから。





   end 

 ←short story
×