真っ赤なお鼻の〜
トナカイさんは〜
いっつもみんなの〜
「笑いものにすんじゃねえ!ぶえっくしゅっ!!」
「うわ…汚い…そのオヤジみたいなくしゃみどうにかならないの?」
「うるちゃい総司。」
「思いきり噛んでて睨まれても怖くないよ。」
町はすっかりクリスマス。
そうです今日はクリスマスイブですもの。
あちこちクリスマスソングが流れているし、イルミネーションもきらきらしてる。
おまけにどこ見てもカップルカップルカップルカッ…!!!!
「うぅぅぅ!!!」
「うるさいよ。外で奇声あげるなら家に帰るけど。」
「やだよー!!!」
クリスマスに一人なことをくりぼっちというらしい。
そんなさみしいことは嫌だ。
家族で過ごせばいいかなんて暢気に考えていたら…お姉ちゃんは彼氏とデート。
両親も私はてっきり友達と過ごすと思っていたらしく夫婦でデートするらしい。
「それにしても、好きな人の恋を応援しちゃって、挙句の果てにくっつけたなんて…とんだ笑いものだよね、名前は。」
「うぐっ。」
そうです。
つい先日まで私は恋をしておりました。
同じクラスの斎藤君は総司の友達だ。総司と幼なじみという立場を利用して近づき…少しずつ少しずつ仲良くなっていると思っていたのに。
斎藤君は違う人を好きになり、そしてそれを相談され、最終的にはキューピッドよ。
ええ、斎藤サンタを彼女へ届けるトナカイになったわけですよ。
「で、また今年も僕とクリスマスを過ごすなんてさ。どこの誰だっけ?来年は素敵な彼氏と一緒に過ごしてやるんだからって意気込んでいたのは。」
「傷をえぐるなー!!どうせ私は…サンタにはなれないんだ。」
「サンタ?」
「どうせ縁の下の力持ち。トナカイぐらいにしかなれないんだよ。」
「…寒さで鼻が赤くなってるよ。ほんと赤鼻のトナカイだね。」
「総司!!!」
本当にその通り。赤鼻のトナカイみたいだ。
いつだって目立たない私にスポットライトが当たることはない。
おかげさまで彼氏もいないし、ただなんとなく毎日が過ぎている。
寒いから何か飲み物買おうよと総司が言う。
一番近くのコーヒーショップまでは5分。あてもなく町をふらふらしてるのも暇だし私はうんとうなずいた。
そういえば。
すたすたとあるく総司をちらりと見た。
総司は彼女と過ごさないのだろうか?
幼なじみでずっと一緒にいるとはいえ私でも総司がイケメンだというのはわかる。
そしてもてるのも知っている。
いつも嫌味かってぐらいバレンタインチョコをもらってきて私の前で見せつけるように食べているところを見るとクリスマスにお誘いがないとは到底思えない。
それどころか告白されているところも何回か目撃している。
なのに…だ。
どうしてこの男は私の隣に立っているんだ??
気になりだしたら止まらなくなってきた。
コーヒーショップに入り飲み物を頼んで席に着く。
一番端のテーブル席に落ち着いた。
ケーキを食べたい衝動にかられたけど甘いものが好きな総司のことだ。
あとでちゃんとお店で買おうっていうだろうと思いとりあえず我慢。
カフェモカを一口飲んで改めて目の前の総司を見た。
うん。やっぱりかっこいい。性格はおいておくにしてもモテるはずだ。間違いない。
同じように一口ココアを飲んだ総司は私の方を見た。
「何?」
「いや、あのさ。総司は…。」
「だから何?」
「今日は予定なかったの?」
「は?」
「だって総司はさ。モテるじゃん。なのにどうして私とこうやって過ごしてるのかなと思って。」
言いながら切なくなってきた。
実際総司がどこかの誰かと過ごすことになったら私は一人だ。
そんなのつらい。いつも一緒なのに。
ん?いやいや、いつかは総司だってどこかの誰かさんと過ごすんだから…。
「名前はさ。確かにトナカイって感じかもね。」
「は?」
「サンタのコスプレよりトナカイのコスプレのほうが似合いそうだよ。」
「どういう意味だ!お笑い要員か!!」
「いつも誰かのために動いて自分のことは後回し。まぁそんなところも嫌いじゃないよ。」
「え?」
ちょっと待ってよ。
総司がそんなこと言って笑ったら…
少しだけ、ほんの少しだけドキッとしちゃうじゃないか。
「それに比べて僕はサンタにぴったりだと思わない?」
「…こんな意地悪そうなサンタ嫌だよ。子供たちもびっくりげっそりだよ。」
「こんなに優しいサンタがどこにいるのさ。お人よしのトナカイに毎年付き合ってあげてるっていうのにさ。」
「何よそれ。わざわざ私のために予定あけてるみたいじゃん。」
「そうだけど?」
頬杖ついてニッと笑って私を見る。
なにそれ、どこまで冗談?早く嘘だって言ってよ。
信じちゃうから!!
「今年からはさ、トナカイ。」
「は…はい?」
「今までと違うクリスマスにしよう。そして来年からはもっと前から計画立てて過ごそう。」
「総司…それってさ…どういう意味?」
「サンタはトナカイとペアじゃないと何もできないからね。」
「ねえ!だからどういう…。」
「いい加減気づいてくれない?にぶいなあ、もう。」
ねえ総司。顔が赤いよ。
サンタまで赤くなってどうするの?
「ちゃんと言わないとわかんないよ。ねえサンタさん。プレゼントちょうだいよ。」
「トナカイはプレゼントなんて望まないでしょ。」
視線を逸らしても総司の顔は赤いまま。
そうだったんだ。
ごめんね、私ずっと気づけなくて。きっとたくさん総司のこと傷つけてた。
「僕の彼女になりなよ。名前。」
サンタさんは見てくれていた。
赤鼻のトナカイのいいところを。
私のいいところも悪いところも全部知っていてそれでも選んでくれたんだ。
「ほら、飲んだらチキンとケーキ買って帰ろう。家でのんびりしたい。」
「うん!」
今年はいつもと違うクリスマス。
並んで歩くだけの二人が、手を繋いで歩くようになったんだから。
終