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俺の好きな女は

仕事も家事も一生懸命で。

でもどこか無理をしすぎている気がするんだよな。

そんなところも可愛いとは思うんだが。

それより何より問題なのは。

あいつが俺ではない奴を好きなんじゃないかということだ。







―あなたの理想―








 「原田さん!!!飲みに行ってください!」


名前が俺のデスクにバンと音を立てて手をついた。
見上げると帰る準備万端の名前が眉間に皺をよせて立っている。


原「…また負けたか?総司に。」


 「負けたとか言わないでください!し…仕事に勝ち負けとかないです!ただちょっとだけ総司より売り上げが少なかっただけですから!」


原「本当にそう思ってるか〜?眉間の皺がすごいぞ。土方さんみたいだ。」


 「冗談やめてください。そんなところに皺よせてたら女子力半減です。」


原「そうだな。なくなっちまう。」


 「ちょっとおお!」


原「ほら、行くぞ。飲み行くんだろ?」


 「え…?あ、はい!!」


それはそれは嬉しそうに笑う名前の頭を軽く撫で、俺は帰り支度を始めた。


こいつはいつもこうだ。
営業に配属されているんだが男顔負けの成績をいつも上げている…が、同期の総司にいつも僅差で負けて、負ける度に俺に飲みに行ってくれと誘ってくる。


会社を出て、いつもの居酒屋に入ると店長が苦笑いでまたですかと俺に目で訴えてくる。
こいつが負ける度にここで飲んで総司の馬鹿野郎と叫んでいたら仕事のことではなく彼氏の愚痴を言っているようにしか聞こえないだろう。


そう。
名前は総司のことが好きなんじゃないかと思う。



 「原田さんはビールでいいですか?あ、でも明日朝から会議ですよね。今日は早めに切り上げましょうか。」


原「気にするな。少し飲んだぐらいで支障きたさねえよ。」


入社した頃は大人しい奴だと思っていたが、負けず嫌いな性格や、こういう細かいところに気がつく女らしいところは段々と知っていった。


最初は勢いよく飲みだすくせにそんなに強くないのかすぐに顔を赤くしてちょっとずつしか飲めなくなることも。
ビール二杯でこんなに酔えることも。
多分一番知っているのは俺のはずだ。


だけど。
一向に距離が近づかねえ。



 「原田しゃん、どうしたら総司に勝てますか?」


原「お前、さっき仕事は勝ち負けじゃないって…。」


 「でも一度ぐらい勝ちたいんでしゅよー。」


原「成績で勝てなくても…だな、お前は書類も細かく書けてるし、気遣いはできるし、後輩からも慕われてるじゃねえか。そういうところは総司より上だ上。」


 「ううー。」


原「忙しそうなのに毎日弁当作ってるって千鶴が尊敬してたぞ。」


 「ちじゅるちゃんらって素敵なお弁当作ってましゅよ。いつもおかず交換しゅるんでしゅー。」


えへへへと楽しそうに話す名前は一瞬で総司のことは忘れたらしい。
千鶴とどこへ出かけただの、女子の間では何が流行ってるだの関係ない話を始めた。


あまりにも楽しそうに、嬉しそうに話すもんだから。
俺としたことがすっかり忘れて話を聞いちまったんだよ。
…名前の酒の量をな。

    

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