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中学・高校と女子高育ちの私に。
大学に入って初めて彼氏ができました。

少女マンガみたいな恋なんてなかなかないってわかっているけど。
やっぱり憧れちゃうな。

でもこんな私で。
本当にいいのかな?

あなたの彼女にふさわしいのかな?






―自転車と君と私―







平「おーい、名前!!!」


 「あ、平助君。」



次の講義室へ移動しようと歩いていたら後ろから大好きな声がした。
振り向けば笑顔の彼が手をぶんぶん振っていて、私と目が合うと走ってきてくれる。



平「次の講義一緒に受けようぜ。」


 「うん。」


さっき総司が…と平助君が沖田君の話を始めた。平助君には高校から一緒の友達が何人かいるみたいでいつもわいわい楽しそうにしている。
その話を聞いてるのはとても楽しくて私は笑いながら平助君に相槌をうつのが当たり前になっていた。


大学に入学してすぐは男の子の多さに戸惑ったけれど、最初に話しかけてくれたのが平助君だった。
気さくで人懐っこい笑顔に安心したのを覚えている。
それからというもの講義を一緒に受けたり、平助君が入っている剣道サークルに遊びに行ったりとすっかり友達になった。


そして。



平『あのさ、俺と付き合ってください!!!』



平助君の告白を受けたのが一ヶ月前。




正直信じられなかった。
罰ゲームなんじゃないかと辺りをキョロキョロしてしまうぐらい挙動不審になった。


だって。
平助君の周りはいつも友達がいっぱいで。
もちろん女の子もいて。
可愛い子も綺麗な子もおもしろい子も優しい子もいる。

なんで私かわからなかった。
私はどっちかといえば地味な顔だし。
運動も苦手。
勉強は嫌いじゃないけどできるわけでもない。
料理は好きだけど片付けが苦手だし、大雑把だ。

もっともっと良い子はいっぱいいる。
もっともっと可愛い子はいっぱいいる。


そう考えれば考えるほど何でかわからない。

しかも男の子に告白されるなんて生まれて初めてだったから。


 『あの…えっと…。』


しか言えなかった。


平『名前、俺じゃだめか?』


 『駄目じゃない!けど。』


平『けど?』


 『どうして私?私でいいの?』


嬉しいと驚きとが混ざったよくわからない涙が目に溢れて、やっと絞り出した声に平助君が慌てていた。


平『なっ泣くなよ!お前がいいの!俺はお前じゃなきゃだめなんだよ…。』


私の目元を平助君の指が優しく触れた。


平『いつも俺の話を楽しそうに聞いてくれて、いつも俺のこと元気づけてくれて、俺がバイトばっかしてると体調気遣ってくれて。』


平助君はいくつかバイトをかけもちしている。
母子家庭だから生活費を自分で稼いでいるって言っていた。


平『別に無理してるつもりなんてないんだけどさ。そんな風に気遣ってもらったり、頑張ってるって認めてもらうの初めてだったんだ。』


 『平助君。』


平『だから。これからも俺の傍にいてほしいし、お前が辛い時は俺が支えたいよ。俺の彼女になってください。』


 『はい。』


笑って返事をして。
平助君が少し顔を赤らめて。
つられて私も赤くなって。
しばらくそこを動けずにお互いモジモジしてたと思う。







平「名前?聞いてる?」


 「え!?」


平助君の声に我に返るといつの間にか講義室の前まで歩いてきていたらしい。


平「この講義終わったらどこか遊び行こうぜって言ったんだけど…。俺今日バイト休みだし。」


 「あ、うん!ぜひ!!!!!」


平「あはははは!なんだよその勢い!そんなに俺と遊びに行きたかった?」


ニッと口角をあげて少しだけ意地悪そうに笑う平助君。こんな表情を知ったのは付き合ってからのことだった。


 「…うん。一緒にいたいから。」


平「っ〜〜お前なんでそういうこと…。」


私が素直な気持ちを伝えると真っ赤になるのも、付き合ってから知ったこと。

そんな会話を講義室の入り口でしていたもんだから。
沖田君にいちゃつくなら外行ってと平助君がからかわれていた。

    

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