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 『僕はあなたが好きです。付き合ってください。』


 彼はそう言うと花束を差し出した。


 『嬉しい・・。』


 泣きながら彼女は花束を受け取り、そして笑顔になる。
 彼は優しく彼女を抱きしめ、そして二人はキスをする。




 「すてき・・・。」


沖「どこが?」


テレビの前で祈るように座り込むのは名前。

それを冷めた目で見つめるのは総司だった。


総司の家でレポートをしている途中、名前が最近見ているドラマが最終回だったことに気が付き、無理やりテレビを奪い取って今に至る。


二人は大学で同じ学科になり、お互い一番気が合うとは思っていたがどうもそれ以上すすまないのは。


 「どこがって何!?あんないろんなことを乗り越えた二人が結ばれたんだよ!?」


沖「ドラマだからね。」


 「感動しないとか信じられなーい。」


沖「あんな花束とか送って告白とか何年前のドラマだよって感じじゃない?」


 「今は純愛が人気なんですー!」


沖「へーあんなの流行ってるんだ。世の中みんな純粋になればいいね。無理だろうけど」



恋愛に関しては全く話が合わないところである。


名前はサバサバしていてときどき本当に女子なのかと総司も思っていたが恋愛になると途端に乙女になってしまうのである。


 (信じられない。あんな甘くてラブラブな恋愛素敵なのに!)


沖(信じられない。あんな暑苦しいの。どうせすぐわかれるじゃん。)


お互いの考えは平行線。



 (総司は私のことどう思ってるんだろう。気は合うけど、恋愛の価値観違いすぎるよね。総司からしたら私すごい重くて面倒なのかな。)




 「総司はさ。好きな子にもそんな感じなの?」


沖「そんな感じって?」


 「冷めてる感じー。」


沖「うーん。」

総司は少し視線を外して考えていた。

 (誰のこと考えてるんだろう・・?ってか総司好きな人いるの!?)


沖「基本的に考え方は変わらないんじゃない?」


 「まぁ・・そうだよね。」


沖「でも相手が望むなら・・別かな。」


 「と、いいますと?」


沖「相手に合わせることもするってこと。」


 「えー!?」


沖「ちょっとケンカうってるの?」


 「だって総司が女の子に合わせるとか・・。」


沖「それぐらい僕もできるんだけど。」


 「じゃあさっきみたいな告白してほしいとか言われたらどうするの?ラブラブしたいとか、毎日会いたいとか。」


沖「名前はそういうの好きそうだよね。」


 「う・・。いや、私だってなるべく相手に合わせるけれど。」


すっと総司が立ち上がりキッチンに向かっていった。
すぐにお茶をもって戻ってくる。
喉が渇いたのか一気に飲み干した。


 「あ、総司、私にも。」


沖「名前」


 「何?」


沖「これ見て。」



総司が目の前に右手を出す。
ぐっと握り、そして


 「わぁ・・。」


ぱっと花が現れた。


 「チューリップ?」


総司の手には一本の赤いチューリップ。


沖「そう。」


 「すごーい!手品??」


総司からチューリップを受け取り、手品のタネを聞こうとした。


沖「好きだよ。」




時間がとまる。


 (ん?今・・)



沖「好きだよ、名前。僕と付き合って。」


 「え・・?」


沖「聞こえないの?」


総司は微笑むとゆっくり近づいてきた。


沖「好きだよ。」


耳元に響く声。
顔に一気に熱が集まる。


沖「ほら、名前は?」


 「わ・・私も。」

答えるよりやや早く、総司が名前を抱きしめた。


沖「ま、知ってたけどね。」

 
 「は!?」


沖「今日から彼氏彼女だね。」


 「でも・・総司、私みたいなの面倒じゃないの?」


沖「だから、相手に合わせることもするって言ったでしょ。告白だって名前が好きそうなことしてみたのに。」


 「う・・嬉しい。」



最後のほうは言葉になっていなかった。
嬉しいのに涙がでる。
こんなことあるんだ。


沖「ドラマみたいだね、告白されて泣くなんて。」


 「だってぇ・・。」


沖「ま、そういうとこ可愛いよ。」


 「か・・かわっ・・。」


沖「まぁ、惚れたもん負けってことで。なるべく君の望むことはしたいと思うよ。とりあえず明日遊びにいこうか。」


 「うん!」


二人の考えは平行線。

ただ、

二人の思いは交わっていたのだった。





   end 

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