土「お前に頼みがある。」
書類が山積みになっている先生の席にいくと開口一番に先生はそう言った。
「頼み?」
土「ああ。しばらく放課後お前の時間を俺にくれ。」
「え?」
土「正確に言えば…総司にくれ。」
「は?」
沖田君?
沖田君ってあの沖田君?
クラスメートだけどそんなに話すこともないな。彼はとても人気者だけど席も遠いし、共通点もなさそうだから。
そんな彼に何で私?
土「今回のテスト、あいつの成績は散々だ。いや、あいつは本当にできないわけじゃねえ。やりゃできるんだがいまいち本気をださなくてな…。」
「そうですか…。でもどうして私が。」
土「お前後輩の勉強見てやったんだってな。評判良かったぞ。俺達教師も見習わないといけねえって話をしていたところだ。」
「いや…あれは。」
先生達の耳にまで届いてたの?
今度からはもっと静かにこっそりやらないとな。…ってやらないやらない!
土「頼む。こんなひどい成績が続くようじゃ進級できても受験がまずいだろ。」
ひらひらと土方先生の手には沖田君のテスト結果が書かれた表があった。
…うん。
ちらりと見るだけでも赤点が三教科存在する。
って勝手に見せちゃプライバシーの侵害ですよ。先生。
土「総司には俺が話をしておく。今日からしばらく…いや、まずは一週間でもいい。見てやってくれ。頼む。」
「はあ。」
あの土方先生に頭下げられて断れる人がどれぐらいいるのか調べてみたい。
少なくとも私は無理だ。
教室に戻ると私は静かに席に着いた。
午後の最後の授業は自習になっていて教室中は浮足立っている。もうみんな帰るモードになってるんだろうな。
放課後どこ行くとか話しあってるもん。
ちらりと沖田君の方を見てみた。
隣の席の藤堂君と楽しそうに何かを話している。
あまりちゃんと見たことなかったけれど女の子から人気なのは納得した。整った顔してるわ。
――バチッ
まるで音がなったかと錯覚するぐらい見事に目が合った。
なんとなく逸らせなくて見ていたらふわりと微笑まれた。
うわ。なんか慣れてる。
世界の違う人だと私は目の前の本に視線を戻した。
多分無表情だったから気を悪くしたかも。
…ま、いっか。
本の世界に集中しているとあっという間に時間が過ぎたらしい。
HRを終え一日が終わると教室が賑やかになる。
そういえば放課後に勉強を教えてやれとは言われてけれど。
本人にする気がなかったら私が無理やりやらせる必要ないよね。
どうするんだろうと沖田君を探したけれど彼は教室にいなかった。
もしかしてもう帰った?
だったら私も帰っていいか。
そう思いカバンに教科書やノートをつめ、教室を出ると声をかけられた。
沖「あれ?帰っちゃうの?」
「あ。」
ドアの所に寄りかかるように立っていたのは沖田君だった。
「沖田君帰ったと思って。」
沖「土方先生に呼び出されたの。そして聞いたよ。今日から名字さんが勉強教えてくれるんでしょ?」
「私でよければ。」
沖「よろしくね。」
あれ?意外とあっさり受け入れるんだな。
勉強なんてしたくないのかと思ったのに。
教室はまだ人が多いからと私と沖田君は自習室に向かった。