俺は多分我儘だ。
絶対お前より先に逝っちまうのに。
お前と離れることができなくて。
お前を放すこともできなくて。
だけど。
すっげえ幸せなんだ。
―君ノ記憶―
「平助君、平助君。」
肩を叩かれるまで呼びかけられていることにすら気がつかなかった。
振り向くとそこには名前がいて。
どうしたの?って笑っている。
二人で静かな山奥に住みだしてからどれぐらいの時間がたったんだろう。
本当に何もないところで、贅沢は何一つできないけれど。
それでもすっげえ幸せな時間だけが流れていた。
平「わり…ぼーっとしてた。」
「ふふっ。ご飯できたよ?」
平「よっしゃ!腹減ってきた!!」
「たまには縁側で食べる?おにぎりにしたし。」
平「ほんとか?じゃあそうしようぜ!」
太陽の光もだんだんやわらかくなってきて。
少しずつ秋の訪れを感じていた。
羅刹になった俺も、この土地に来てからだいぶ人に戻れたみたいで。
昼間起きていることも苦じゃなくなった。
縁側に名前と二人で座って空を見ながらご飯を食べる。
ただそれだけなのに。
なんでだろう。
時々嬉しくて泣きそうになる。
「平助君?どこか苦しいの?」
泣くのを我慢していたからだろう、多分俺は変な顔してたんだろうな。
名前が心配そうに俺を覗きこんできた。
苦しくなんかない。
幸せなんだ。
だけどそうか。
苦しいといえば苦しいよ。
いつか俺は。
お前と離れなきゃいけないんだ。
平「大丈夫だよ。名前。」
顔を見られないようにゆっくりと名前をひきよせて抱きしめた。
平「名前、やわらかいな…。」
はなしたくない。
「え!?ふっ太った!?」
はなれたくない。
平「ばーか。違うよ。むしろもっと食べたほうがいいって。」
あの時は、いつ死んだっていいと思ってたのに。
「平助君が変なこと言うから…。」
死にたくねえよ。
平「可愛い、名前。」
怖い。お前と一緒にいられないことが。
「平助君のばか////」
怖い。お前を一人にすることが。
赤くなっている名前にそっと口づけた。
もう何度もしてるのにいちいち赤くなる名前が愛おしくて。
俺はもっと苦しくなった。
最近こんなことばかり考えてしまうのは。
きっと俺がそう長くないからだ。
自分のことは自分が一番わかるから。
こいつを悲しませたくなんてないのに。
胡坐をかいた俺の上に名前を座らせ、後ろから抱きしめた。
さらさらと流れる黒髪を撫でると気持ちよさそうに目を閉じる。
「平助君。」
平「ん?」
「私平助君が好きだよ。」
平「え?」
「大好き。ずっと一緒だよ。」
平「名前…。」
ばかやろ。
なんで今そんなこと言うんだよ。
なんで今俺が欲しい言葉を言うんだよ。
「私は幸せだよ?」
平「俺も…幸せだよ。」
振り向かないで言ってくれたのは。
俺が泣いてるって思ったからだろ?
なあ、名前。
生まれかわってもまた。
俺と一緒にいてくれるかな?
今度は静かに、そして今より長く。
じいちゃんばあちゃんになっても。
お前の隣にいたいよ。
絶対お前を探すから。
だから。
お前も俺を忘れないで。