今日は委員会はない。
先輩にただ会いたくて。
放課後教室を覗こうとすると、ちょうど先輩がでてきてしまった。
山「うわっ・・。」
「あれ?烝君。どうしたの?」
山「いや・・あの・・。」
「今日はお仕事ないよ?」
山「はい・・。あの・・。」
一緒に帰りましょうの一言をだすのが。
こんなにも難しいものなのか?
山「名字先輩!」
「はい!」
山「・・・花、詳しいですか?」
「???」
「花は好きだけど名前わかるかなー??」
山「・・すみません、気になったもので。」
いつもの帰り道。
朝見つけた花の名前が知りたいというわけのわからない口実で先輩と一緒に帰ることができた。
もっとうまく誘えただろうと心の中で何百回も後悔している。現在進行形で。
先輩は相変わらず少し前を歩き俺はそれを見ていた。
突然振り返るとふにゃりと笑う。
その仕草がたまらない。
「もしかしてあれ??」
山「え?」
先輩が指さした先には。
見事なひまわり。
「あれはひまわりだよー烝君。」
山「・・・・さすがに俺でもわかります。それじゃなくて・・あっちです。」
本気で俺がひまわりがわからないとは思っていなかったであろう先輩が俺の指さした方を見た。
黄色い花。
「見たことある!・・でもわかんないや。おばあちゃんに聞けばわかるかも。」
ごめんねと言われて申し訳なくなる。
花の名前なんてただの口実で。
俺があなたと帰りたかっただけなのに。
再び歩き出し、俺達は家へ一歩一歩近づいていった。
そしていつもの曲がり角。
「じゃあね、烝君。」
山「また明日。」
くるりと先輩は曲がって歩き出す。
俺も先輩に背を向けて歩き出すだけだ。
いつもなら。
だけど。
山「名字先輩!」
「??」
思わず呼びとめた。
どうする?
何を言うかも決めていなかった。
どうしようかも考えてなかった。
先輩はこっちに少しずつ近づいてくる。
そりゃそうだろう。
俺が呼びとめたんだ。
「どうしたの?」
山「あの…」
瞬間。
あの花が頭をよぎった。
大丈夫だ。
言いたいことを言えばいい。
山「俺、名字先輩と一緒にいたいんです。」
「え??」
山「あなたの隣を歩きたい。あなたの横でいろんなものを見て、今まで気がつかなかったようなことに出会いたい。」
「烝君??」
先輩の目が大きくなる。
くそ・・俺は何が言いたいんだ。
そんなことじゃなくて。
山「つまりその・・。」
簡単じゃないか。
たったの二文字だ。
山「好き・・です。」
本当は目を見て言いたかったのに。
俺の視線の先は道の石ころだ。
本当に情けない。
「烝君!」
山「はい!?」
先輩の少し高めの声と、同時に自分の手首に触れた先輩の手の感触に思わず声が裏返る。
「私、秋には紅葉見に行きたい。」
山「紅葉・・?」
「冬は雪だるま一緒に作りたいな。」
山「えっと・・。」
「春はお花見しよう。そして来年の夏は海に行こう!!!」
山「名字先輩・・?」
「できれば、名前で読んでくれるかな?烝君。」
ふにゃりとした笑顔に。
山「名前・・さん。」
「これからは・・毎日一緒に帰ろう。」
山「はい。」
雲ひとつない青空の下。
太陽がこの瞬間を刻み込むように輝いた。
そして俺は。
先輩の隣を歩くようになった。
終
おまけ
「烝君!おばあちゃんに聞いたよ。あの花キンケイギクって言うんだって。」
山「へえ・・。」
「あれ?興味ない?」
山「っ!いや!そんなことは。」
「花言葉はいつも明るく!」
山「ああ。なるほど。(やっぱり名前さんみたいだな。)」
「???(何がなるほど?)」
終