次の日の放課後。
山南先生に頼まれて、俺と先輩は保健室でプリントを作っていた。
月に一度の保健室からのお知らせというやつだ。
「よし!できたできた。」
山「お疲れ様です。」
「烝君もお疲れ様。いつも手伝ってくれてありがとうね。」
俺も保健委員だから手伝うのは当然だと思う。
だけど先輩はいつもこうやってお礼を言う。
そういうところに好感をもつのはきっと俺だけじゃないんだろうな。
「よーし、帰ろうか?」
山「はい。」
「いたっ!!!」
山「名字先輩!?」
いきなり先輩が叫んだことに驚いて俺も大きな声をだしてしまった。
どうやらプリントで指を切ったらしい。
「あ、大丈夫大丈夫。なめときゃ治るって。」
山「・・保健委員がそんな不衛生なこと言わないでください。」
俺は先輩を保健室の流し台まで引っ張ると水で傷口を洗い、ガーゼでふいて絆創膏を貼った。
「すごーい。烝君、さすがだね。」
山「これぐらい名字先輩もできるじゃないですか。」
「面倒だから自分だとやらないなぁ。」
ケラケラ笑う顔が近いことに気がついた。
そう言えば治療の為とはいえ、先輩の腕をつかんだり、指に触れたり・・。
気付いてしまったら最後、顔に熱が集まった。
「烝君、どうかした?顔が赤いけど・・。」
山「っ・・////いや。暑いんで・・。」
「今日も暑いもんね。よし、アイス食べにいこー!」
山「え?」
「帰りにアイス食べて帰ろう?」
そう言って笑う先輩に、俺はただうなずくことしかできなくて。
保健室を出て、下駄箱へ向かう。
すると突然声をかけられた。
「あれ、名字。まだいたの?」
「うん。委員会の仕事。」
どうやら先輩のクラスメイトらしい。
背の高い穏やかな顔立ちの先輩だ。
「もう終わり?」
「終わったよ。」
「じゃあさ、これからカラオケいかね?」
どうやら何人かでカラオケに行くことになっているらしい。
そしておそらくこの人は先輩のことが好きだ。
来てほしそうな雰囲気がこっちにまで伝わってくる。
山「・・名字先輩、行ってくださ・・。」
「ごめんね、私約束があるんだ!また明日〜。」
「え・・あ、名字。」
俺の発言にかぶせるように先輩の明るい声が廊下に響いた。
男の先輩が返事をする前に俺の鞄を引っ張って下駄箱へ向かっていく。
山「ちょっと・・名字先輩、いいんですか??」
「何が〜?」
後ろをちらりと見るとあの先輩は立ちつくしていて。
明らかにへこんでいるようだった。
山「いや、クラスの人とカラオケいかなくて・・。」
「だって烝君と先に約束したじゃん。」
山「それは・・そうですけど。」
「暑いときはアイスだよ!アイス!」
たとえアイスが食べたかったからだとしても。
俺の頬を緩ませるには十分な出来事だった。
少しだけ、いつもよりあなたに近づけた気がしたから。