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斎藤君がこなくなってから二週間ぐらい過ぎた。



誰もいない教室に一人。




 「今日も静かに終わった・・。」



総司も平助も斎藤君も部活に行ったみたいだし。
私は今日部活休みだけど、少しピアノひいていこうかな・・。




――ガラッ




 「あ・・総司。」



沖「あれ、名前ちゃんまだいたの。」





 「総司部活は?」



沖「行くよ。忘れ物とりきただけ。」




総司は自分の机からノートを取り出すと鞄にしまいこんだ。
今日数学の課題でてたもんね。


 「総司・・。」



沖「ん?」



 「斎藤君、元気?」



沖「・・・何それ。気になっちゃった?」




 「べ・・別にそういうわけじゃ。」



沖「それは困るなぁ。」



ガタンと総司は自分の席に座り私の方を向いた。
私と総司の間は机一つ分。
その机に頬杖ついてこっちを覗きこんでくる。



 「なんで。」



沖「だって名前ちゃん、今僕の恋人じゃない。」


 「フリでしょ。」


沖「フリじゃなくて本当に付き合おうって言ったらどうする?」


 「え・・?」



後ろに椅子をひこうとした瞬間に腕を掴まれた。



沖「どう?付き合わない?」



 「いや・・何馬鹿なこと言ってんの。」



沖「傷つくね、その一言。」



ぐっと腕を引っ張られるともう目の前に総司の顔があった。
総司のもう片方の手が後頭部にまわる。



 「わっ!」



沖「黙って・・。」




え!?
き・・キスしちゃう!?



 「だめだめ!!!」



沖「はいはい静かに。」



どうしよう!?
だ・・誰か・・。





 「さ・・斎藤君!斎藤君!助けて!」



あ。
総司が止まった。
ん?
私今何て言った?



今・・斎藤君って言った???










斎「総司。今すぐ名前からはなれろ。」







 「ぎゃああああ!!!」





あ ら わ れ た !






音もなく至近距離!
いや、確かに呼んだけれども!!!

ってか見てたの!?
いつからいたの!?
盗聴だけじゃなく盗撮もか!?





でも・・助かった。






斎「名前、大丈夫か?」



 「あ・・うん。」




斎藤君が私の横に跪くように座る。
そういえば久しぶりに話した。




斎「すまない・・すぐに来れなくて。」





いや。
すぐでしたけど。
光の速度並みでしたけど。






斎「もう二度とこんな目にはあわせない。」





ぎゅっと私の手を包み込む斎藤君の手は温かくて。なんだか嫌じゃなかった。



何これ。
私どうかしてる。




いや、違う。
それもこれも全部斎藤君のせいだ。




斎「・・名前?」



首かしげたってだめだ。
なんなのよ。
話しかけてこなくなったくせにいきなり助けるように現れるなんて。



 「なんなのよ。」



斎「は?」



 「いきなり来るとか!」



斎「あんたが呼んだからだ。」



 「っ///違う!なんでいきなり話さなくなったくせに・・。こんな・・。」




斎「名前!?」



よくわかんないけど涙がでる。
斎藤君が今までにないぐらい慌てふためいた顔してるよ、ざまあみろ。
総司まで目を丸くしてるけど。




 「ぐいぐい来たり・・はなれたり、そう思ったら助けに来たり・・っく・・よくわか・・んない。なんなのよぉ・・。」




斎「な・・泣くな!名前、頼む・・。」



ごしごしと私の目元を拭う斎藤君も泣きそうなぐらい困ってるみたいだ。




 「いきなり来なくなるとか・・やめてよぉ・・やっぱり私のこと・・なんて好きじゃないんだって・・。」




斎「そんなことはない!俺は・・あんたが好きだ。」




 「・・ほんとに?」




斎「本当だ。」




 「・・そう。」


















沖「ねー、二人とも。僕いるの忘れてない?」




 「あ・・。」




斎「いつまでいるのだ。早く部活に行け。」




沖「ひどいなぁ一君。手伝ってあげたのにその言い方。」




え?手伝う?



斎「・・・確かに。総司の押してダメならひいてみろというのは効果があったようだな。」



え?え??
押してダメならひくって・・。
それで話してこなくなったの!?



沖「でしょ。しかも今だってかっこよく登場で来たんだから感謝してよね、一君。」




斎「あぁ。感謝する。」



そう言うと斎藤君は私を立ち上がらせてから抱きしめた。




斎「今度こそ、俺達は恋人同士だ。」




そう言って私の手にキスをした。













あれ・・。


だまされた?










斎「しかし名前、あんたは無防備すぎる。俺が後少し遅かったら総司に何をされていたかわからないぞ。」



沖「ちょっと。僕もさすがにひどいことはしないけど。」



斎「部活が終わるまで待っていてもらえるか?俺が送る。そうでないとまた帰りに買い食いしそうだからな。」



沖「・・またって。僕達が放課後どこかよってるのは言ってないけどなんで一君知ってるの。」



斎「俺は名前のことは何でも知っている。」



沖「うわあ・・。」




うん。
斎藤君完全復活だよね。








・・・・殺ってやる・・。





斎「名前さえよければ朝も迎えにいくが・・。」








 「丁重にお断りします!!!!!(怒)」




――バギィ!




久しぶりに私の掌底が斎藤君の顔にヒットした。





 「さようなら!」





床に倒れ込んだ斎藤君も、「一君!?」とか心配してる総司もみんな知らない。




知らない。
あんなストーカー知らない!!




だからきっと。
このドキドキも気の迷いだ。
寂しかったとか、助けにきてくれてほっとしたとか全部全部気のせいだ!!!






私は鞄をつかむと教室を後にした。









私の平穏な日々はしばらく訪れそうもないと。
翌日、涼しげな顔をして私を迎えに来た斎藤君を見た瞬間に悟った。





斎「おはよう。名前。愛してる。」






 「寄るな!変態!」






だけど、今までより。
ちょっとだけ楽しい自分がいた。














おまけ



平「あれ?二人で来たの?」



 「違う!何故か斎藤君が朝からうちの前にいて・・。」



沖「仲良く登校したんだね、良かった良かった。」



斎「迎えに行くのは彼氏として当然のことだろう。」



 「いつから彼氏だ!・・あれ?なんで私の家知ってるの?」



斎「だから、俺はあんたのことは何でも知っていると・・。」




平(尾行したな・・。)


沖(尾行したね・・。)






  end 

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