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いつも通りに切ればいいのに。
私の手は少しだけ震えていた。
うまく力が入らない。



 (あ、そうだ。斎藤さんがいるから・・。)


 「いっ・・。」



そんなことを考えていたら指を切ってしまった。
ぷつっと赤い玉が指に現れる。



斎「名前!!」



 「さ・・斎藤さん!?」



大きな声に驚いた、と思ったら手首をつかまれる。


斎「切ったのか!?」


 「えっと・・。」


そのまま手をひかれ水で手を洗われる。


斎「少し冷たいが・・。」


 「あの、大丈夫です。これぐらい・・。」



驚きと恥ずかしさでどうしていいかわからない。
そしてこんなにあわてている斎藤さんをみたのも
初めてで、さらにどうしていいかわからない。


斎「す・・すまない。」



おそらく真っ赤な顔をしている私に気が付き
斎藤さんは手をはなした。



斎「どうしたのだ?先ほどから様子がおかしいが、もしかしてどこか悪いのか?」



 「え?い・・いえ、どこも。」



斎「名前を呼んでも返事はない。どこか上の空で指まで・・。」



 「それは、そのー。」



斎「なんだ?」



まっすぐに見つめられて
目をそらせない。



 「緊張・・。」



斎「?」



 「緊張したんです!野菜を切るのに。」



斎「あんたが料理をするのは初めてではないだろう。毎日のように作ってくれているではないか。」



 「えっと、だから・・。初めてだから・・。」



斎「何がだ?」



 「斎藤さんとご飯を作るのは初めてだから上手に作りたいって思えば思うほど手が震えて・・。」



もう言葉の後半は小さすぎて届いているかわからない。
だって、これって。



 「少しでも上手って思われたいじゃないですかぁ。」



もうだめだ。
顔を手で覆った。
 
あなたの前では上手に料理したいなんて
あなたの前では失敗したくないなんて

好きですと言っているようなものではないか。

顔を隠していた手にそっと手が触れる。
ゆっくり手を下げられた。
斎藤さんの目がまっすぐにこちらに向いている。


斎「俺は好きだ。」


 「!?」


斎「あんたの作る味噌汁も・・煮物も・・。だから、自信を持て!」


 「あ・・(そういうことか)はい!」

なんか、気付かれずにすんだ?
斎藤さんって・・鈍感?

一気に力がぬけて、その後はいつも通り料理することができた。

   

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