そして私と斎藤君は教室でも話すようになった。
大笑いすることも、盛り上がることもないけれど。
時々課題を聞いたりとか。
どんな音楽を聴いてるとか。
おすすめの本は何かとか。
そんなたわいもないことを休み時間に時々話すぐらい。
だけど、私はその時間が楽しくて。
もしかして・・斎藤君のこと・・。
とか考えるようになった。
「あー。わかんないなぁ。」
家で一人、課題を解く。
だけど数学は私の苦手科目だし。
もう少しで解ける気がするんだけど。
「・・聞いてみようかな。」
机に出していた携帯に手を伸ばす。
電話帳を開けば斎藤一の文字。
そう、実は最近番号を交換していた。
だけど電話をすることもメールをすることもなくて。
そのままだった。
画面に触れ、通話ボタンを押す。
耳に響くコール音。
出る・・かなぁ?
斎『もしもし・・。』
「あ、斎藤君?ごめんね、あの・・。」
沖『あれー一君、誰と電話してるの?』
「!?」
斎藤君の後ろから声が聞こえる。
よく聞けばざわざわと後ろが騒がしい。
きっとどこかお店に入っているんだろう。
沖『もしかして女の子?』
平『え!?まじで!?!?』
永『ほんとか総司!?』
原『へぇ・・やるじゃねえか。斎藤。』
次々と斎藤君の後ろから声が聞こえてくる。
・・どうしよう。
誰かといるかもしれないって何で考えなかったんだろう?
メールにしておけばよかったのに。
これじゃ斎藤君がからかわれちゃう。
私のせいで・・。
「あ・・斎藤君・・その・・。」
斎『ここは騒がしくて聞こえない、外に出るから待ってくれ・・。』
「あ!ごめん!大丈夫だから!!ごめんね!」
私は思わず電話を切った。
最悪だ。
斎藤君、外に出ようとしてくれてたのに。
あのままじゃ、余計にからかわれちゃうよ。
私のせいで・・。
斎藤君、絶対そういうの苦手だろうし。
迷惑・・かけちゃった。
しかもあんな切り方。
嫌われた・・よね?
思わず窓を見ると雨が降り出していた。
――名字とは・・雨の日に何かあるな。
そう斎藤君が言っていたのを思い出す。
せっかく雨の日が好きになりかけたのに。
「あ・・電池切れた。充電しなきゃ・・。」
携帯まで元気をなくしたようだ。
充電器を取り出すのも面倒臭い。
寝る時でいっか・・。
そろそろご飯の支度しなきゃ。
のそのそと部屋を出てキッチンへ向かった。
妹はまだ塾だし、時間はある。
何作ろうかな・・。
冷蔵庫を開け、適当に材料を取り出し料理を始めた。
だいたいの準備が終わったころ。
――ピンポーン
玄関のチャイムが鳴った。