あれから数日。
これといって斎藤君と話すことはなかった。
あれは、偶然の出来事で。
あれをきっかけに私たちが仲良くなるなんてマンガみたいなことは現実にそうない。
ただ、あの日以来。
なんとなく教室にいると斎藤君を見てしまう。
監察・・?
だいたい藤堂君や雪村さんと話していることが多いけど。
それ以外は本を読んでいたり、何か課題を解いていたりと誰かと騒ぐようなことはなくて。
だけど何故か目立つ。
見た目もあるんだけど雰囲気かなぁ。
同い年の男の子とは思えないんだよね。
落ち着きっぷりが。
放課後。
私は家へ帰る前に本屋へよった。
お目当ての本を手に入れると外に出る・・が。
「あ・・雨だ。」
折りたたみ傘を持ってくるのを忘れた。
しまった、今日の午後は降水確率70%だったのに。
「通り雨だといいなぁ。」
本屋の前で雨宿り。
たいして強い雨じゃないから帰れないことはないけれど・・。
「本、濡らしたくないな。」
薄暗い空を眺め続けるしかなかった。
斎「名字?」
聞きなれた声に振り向くと本屋から斎藤君が出てきた。斎藤君も来てたんだ。
「あ、斎藤君。」
斎「・・傘がないのか?」
「うん。忘れちゃって。」
斎「・・・入れ。」
「え?」
斎藤君は傘を広げると私の前に立った。
これは・・また一緒に帰るってことかな?
入らないと斎藤君も帰らなそうだよね、絶対。
「ありがとう・・。」
そう言って一歩踏み出す。
斎藤君の横に小さくおさまって歩き出した。
斎「名字とは・・。」
「ん?」
あ、今日は話してくれるんだ?
良かった。無言はきまずいもん。
斎「雨の日に何かあるな。」
「確かに。」
この前といい、今日といい。
私達が関わるのって雨の日だ。
雨男と雨女?
斎「あまり教室では話したことがないな。」
「そうだよね。何ていうか、話しかけてもいいのかなって。」
斎「何故?」
「うーん。近寄りがたいかな、少し。斎藤君本読んでたり、勉強してることが多いし。」
斎「俺は・・話しかけられても構わない。むしろ・・。」
「え?」
斎「いや・・。」
「じゃあ明日から話しかけていい?」
斎「あぁ。」
口数は少ないけれど。
ちょっと興味があった。
だって普段静かなのに、あんな風に慌てて人を助けるなんて。
きっと優しい人なんだろうなとか。
監察してるだけじゃわからない斎藤君が知りたい。
斎「名字は、部活はしていないのか?」
「あーうん。うち両親がいないからね。妹の面倒見なきゃいけないし。ご飯作ったりとか?」
斎「そうなのか・・。」
まずいことを聞いてしまったと斎藤君の顔に書いてある。
別にまずいことじゃないんだけどなぁ。
私には当たり前の日常だから。
「でも妹とは仲良しだし!たまに伯父さんとか伯母さんが見に来てくれるから大丈夫だよ。」
斎「そうか・・。名字はすごいな。」
「え?」
斎「妹の面倒を見たり、家のこともしているのだろう?簡単にできることではない。」
「いや・・そんなこと。」
そんな風に言われたことは初めてで。
だいたい大人からは可哀想とか、しっかりしてねとかしか言われてなかったし。
斎「俺にできることがあったらいつでも言ってくれ。」
そう言って微笑む斎藤君が。
私の心を暖かくした。