驚いた。
学校で見る姿とは違いすぎる。
薄く化粧していて、髪も巻いていて。
高校生なんかに見えねぇぞ。
教師という立場があっさり揺らぎそうになる。
だけど車に乗り込んだ名前はいつもの名前で。
海にいきたいだのデートは初めてだの、やっと俺に平常心が戻ってくる。
海に着く頃にはいつもの自分になっていた。
「わーーー!海!」
土「おい、走るな、転ぶぞ・・。」
「わぁああ!!」
土「・・言ってるそばから。」
目の前でふらつく名前に頭を抱えた。
大人っぽいのか子供っぽいのかどっちかにしてくれ。
「歳三さん!海ちょっと入ってきます!」
土「おい、まだ水冷てぇぞ。」
「足だけですよー♪」
サンダルをぬいでパシャパシャと海に入っている。
何がそんなにおもしろいのか、あいつはずっと笑いっぱなしだ。
あの年頃は何でもおもしろいからな。
「ほらほら歳三さんも!」
土「はぁ?俺も?」
ぐいと手を掴まれ海の方へ連れて行かれる。
仕方なく靴をぬぎ、海に足をつけた。
土「つめて・・。」
「もう少し暑くなったらまた来たいですね!泳ぎに!」
土「そうだな。」
泳ぐ?
水着・・ってことか?
虫よけが大変そうだな、こいつは。
「歳三さん!お弁当食べましょう!」
土「もう腹が減ったのか?」
「う・・うん。」
名前はサンダルをはくと車の方へ向かって行った。弁当の包みをとると走って戻ってくる。
「どこで食べましょう?」
土「あそこに休憩所がある。そこいくか。」
「はい!」
海水浴場として有名な海なだけあって人もけっこういるし、休憩所がいくつかあった。
全盛期ではないせいかまだ混んでいない。
「たくさん食べてください!・・私も食べますが・・。」
土「おぉ、たくさん食わねえと大きくならねぇぞ。」
「どうせもう横にしか大きくなりませんから!」
土「・・うまそうじゃねぇか。」
正直そんなに期待してなかったが。
おにぎり、卵焼き、煮物にから揚げ、サラダもちゃんと入っている。
オーソドックスだが、一番美味いメニューだと思う。
卵焼きを一口食べる。
おいおい、視線が痛ぇよ・・。そんなに見るな。
土「うまい。」
「よかったぁ・・・・。」
どんだけ心配してたんだよ。
俺の反応を見てやっと名前も弁当に手をつけた。
「朝から緊張したんですから。おいしくなかったらどうしようって。」
土「から揚げもおにぎりも美味いから安心しろ。お前料理上手いんだな。」
「褒められた!」
顔を赤らめて笑う名前。
やばい。
可愛いって思わず口からでるところだったじゃねぇか。
いつもと違う姿が余計に俺の調子を狂わせる。
「はい、歳三さん。」
土「は?」
俺の目の前に、いや、正しくは口の前にからあげがスタンバイしている。
これは・・つまり。
「あーん。」
土「ばっ・・ばかやろ、できるかそんなこと。」
「いいじゃないですか。誰もいないんだし。」
むっと唇をとがらせて名前がさらに唐揚げを突き出してくる。
もう俺の口についてるけどな、から揚げ。
土「・・仕方ねぇな・・。」
名前の手からから揚げを食べた。
こんなとこ誰かに見られたらと思うと内心冷や冷やするが、幸いなことに誰もいない。
土「・・ほらよ。」
プチトマトをつまんでお返しとばかりに名前に突き出した。
「え!?」
こいつ自分がされるのには照れるのかよ。
よくわかんねぇな。
しばらく目を泳がせていたが諦めたのかトマトを食べた。小動物みたいだ。
照れ臭い昼食を済ませ、俺達は休憩所を後にした。
「どうしましょう?」
土「その辺散歩でもするか?」
「はい!」
海を見ながら歩くのも悪くない。
こいつが隣にいるからな。
しばらくたわいもないことを話しながら歩いた。学校のこと、名前の進路、家族の話。
ずっと笑顔の名前。
俺はいつからかこいつの笑顔に惹かれてたんだろうな。
「楽しいですね、歳三さん。」
土「あ?あぁ。」
「私幸せだなぁ。早く卒業したーい!」
俺も早く卒業してほしいよ。
堂々と出かけられるし、・・・自分を押さえこまなくていいんだからな。
「歳三さん、手、つないでいいですか?」
土「おう。」
小さな名前の手が遠慮がちに俺の手に触れてきた。
土「っ・・。」
何照れてんだ、俺は。
ガキじゃねぇんだよ。
ちらりと横目に名前を見る。
ニコニコと嬉しそうに前を見ていた。
おいおい、これじゃあっちのほうが余裕じゃねぇか。
俺は絡めるように手を握り直す。
恋人つなぎっていうんだったか?
そのつなぎ方になった瞬間。
ゆでられたタコみたいに赤くなりやがった。
土「くくっ・・。」
「ちょ・・笑いました!?」
土「あぁ。可愛かったからな。」
「か・・かか・・!?」
からかうためなら可愛いとかも言えるんだけどな。
まだまだお前に余裕になってもらっちゃ困るんだよ。