4 

驚いた。


学校で見る姿とは違いすぎる。


薄く化粧していて、髪も巻いていて。
高校生なんかに見えねぇぞ。



教師という立場があっさり揺らぎそうになる。



だけど車に乗り込んだ名前はいつもの名前で。


海にいきたいだのデートは初めてだの、やっと俺に平常心が戻ってくる。





海に着く頃にはいつもの自分になっていた。





 「わーーー!海!」




土「おい、走るな、転ぶぞ・・。」




 「わぁああ!!」



土「・・言ってるそばから。」




目の前でふらつく名前に頭を抱えた。
大人っぽいのか子供っぽいのかどっちかにしてくれ。



 「歳三さん!海ちょっと入ってきます!」



土「おい、まだ水冷てぇぞ。」



 「足だけですよー♪」




サンダルをぬいでパシャパシャと海に入っている。
何がそんなにおもしろいのか、あいつはずっと笑いっぱなしだ。
あの年頃は何でもおもしろいからな。




 「ほらほら歳三さんも!」



土「はぁ?俺も?」



ぐいと手を掴まれ海の方へ連れて行かれる。
仕方なく靴をぬぎ、海に足をつけた。



土「つめて・・。」



 「もう少し暑くなったらまた来たいですね!泳ぎに!」



土「そうだな。」



泳ぐ?
水着・・ってことか?



虫よけが大変そうだな、こいつは。




 「歳三さん!お弁当食べましょう!」



土「もう腹が減ったのか?」



 「う・・うん。」



名前はサンダルをはくと車の方へ向かって行った。弁当の包みをとると走って戻ってくる。



 「どこで食べましょう?」



土「あそこに休憩所がある。そこいくか。」



 「はい!」



海水浴場として有名な海なだけあって人もけっこういるし、休憩所がいくつかあった。
全盛期ではないせいかまだ混んでいない。




 「たくさん食べてください!・・私も食べますが・・。」



土「おぉ、たくさん食わねえと大きくならねぇぞ。」



 「どうせもう横にしか大きくなりませんから!」



土「・・うまそうじゃねぇか。」




正直そんなに期待してなかったが。
おにぎり、卵焼き、煮物にから揚げ、サラダもちゃんと入っている。
オーソドックスだが、一番美味いメニューだと思う。



卵焼きを一口食べる。
おいおい、視線が痛ぇよ・・。そんなに見るな。



土「うまい。」



 「よかったぁ・・・・。」



どんだけ心配してたんだよ。
俺の反応を見てやっと名前も弁当に手をつけた。



 「朝から緊張したんですから。おいしくなかったらどうしようって。」


土「から揚げもおにぎりも美味いから安心しろ。お前料理上手いんだな。」



 「褒められた!」


顔を赤らめて笑う名前。
やばい。
可愛いって思わず口からでるところだったじゃねぇか。
いつもと違う姿が余計に俺の調子を狂わせる。



 「はい、歳三さん。」



土「は?」



俺の目の前に、いや、正しくは口の前にからあげがスタンバイしている。
これは・・つまり。



 「あーん。」



土「ばっ・・ばかやろ、できるかそんなこと。」



 
 「いいじゃないですか。誰もいないんだし。」




むっと唇をとがらせて名前がさらに唐揚げを突き出してくる。
もう俺の口についてるけどな、から揚げ。



土「・・仕方ねぇな・・。」



名前の手からから揚げを食べた。
こんなとこ誰かに見られたらと思うと内心冷や冷やするが、幸いなことに誰もいない。



土「・・ほらよ。」


プチトマトをつまんでお返しとばかりに名前に突き出した。



 「え!?」



こいつ自分がされるのには照れるのかよ。
よくわかんねぇな。



しばらく目を泳がせていたが諦めたのかトマトを食べた。小動物みたいだ。



照れ臭い昼食を済ませ、俺達は休憩所を後にした。




 「どうしましょう?」



土「その辺散歩でもするか?」



 「はい!」



海を見ながら歩くのも悪くない。
こいつが隣にいるからな。




しばらくたわいもないことを話しながら歩いた。学校のこと、名前の進路、家族の話。


ずっと笑顔の名前。
俺はいつからかこいつの笑顔に惹かれてたんだろうな。


 「楽しいですね、歳三さん。」



土「あ?あぁ。」



 「私幸せだなぁ。早く卒業したーい!」



俺も早く卒業してほしいよ。
堂々と出かけられるし、・・・自分を押さえこまなくていいんだからな。


 「歳三さん、手、つないでいいですか?」



土「おう。」



小さな名前の手が遠慮がちに俺の手に触れてきた。



土「っ・・。」


何照れてんだ、俺は。
ガキじゃねぇんだよ。

ちらりと横目に名前を見る。
ニコニコと嬉しそうに前を見ていた。


おいおい、これじゃあっちのほうが余裕じゃねぇか。



俺は絡めるように手を握り直す。
恋人つなぎっていうんだったか?


そのつなぎ方になった瞬間。
ゆでられたタコみたいに赤くなりやがった。


土「くくっ・・。」



 「ちょ・・笑いました!?」



土「あぁ。可愛かったからな。」



 「か・・かか・・!?」



からかうためなら可愛いとかも言えるんだけどな。
まだまだお前に余裕になってもらっちゃ困るんだよ。

   

 ←short story
×