武道大会から数日が過ぎた。
俺は相変わらずクレープ屋で。
しいていえば優勝したことで少し客が増えたぐらいの変化しか感じていなかった。
「クレープ・・ください。」
あの可憐な声が聞こえた気がした。
あぁ、だめだ。
幻聴まで聞こえるなんて。
本当は・・・
一目見たときから。
名前に惚れていたのに。
「あの!クレープ!!!」
沖「聞こえないんですか、新八さん。クレープが食べたいらしいですよ?」」
永「なっ・・。」
幻聴じゃない。
目の前には確かに名前がいた。
その横にはなぜか総司。
永「なな・・なんで・・。」
「なんでってお客ですよ、永倉さん。早くクレープ焼いてくださーい。」
沖「あ、僕はいらないです。」
永「総司、どういうことだよ!」
沖「どういうことって。姫がどうしてもときかないので連れてきたんですよ。土方さんも護衛がいればいいって許可くれたんで。あ、僕左之さんのところで休んでますから。あとで呼びに来て下さいね。」
そう言うとひらひらと手をふって近くの左之の店に入って行った。
おいおい、護衛はどうした、護衛は。
「永倉さん、クレープ。」
永「あ・・あぁ。待ってろ。」
生地を焼いていつも通りクレープを作る。
「あ、イチゴいれてください。」
永「了解。」
出来上がると名前は椅子に座り相変わらず綺麗にクレープを食べ始めた。
俺は水を飲みながらそれを眺める。
「永倉さん。私決めたんです。」
永「ん?」
「せっかく永倉さんがチャンスをくれたんです。私素敵な恋をして、大好きな人と結ばれたい。」
そう言って無邪気に笑う彼女に胸が痛くなった。
彼女の笑顔は嬉しいはずなのに。
永「そうか。」
どんな顔をしていいかわからなくて思わず顔をそらした。
なのに。
「永倉さん?」
そらした方向に彼女が顔をのぞかせる。
「永倉さん、私ね。今気になる人がいるんです。」
永「!!」
にっと笑う彼女はいたずらっ子のように目を輝かせていた。
「私、永倉さんのことが気になってるんです。だから無理言って城を抜け出してきたの。」
永「へ・・?俺?」
「はい。だからこれからもたくさん遊びに来てもっともっと永倉さんのこと知りたいんです!!!・・・いいですか?」
永「も・・もちろん!」
「良かったぁ。」
俺も知りたい。
優しいところも。
土方さんにつっかかるような強いところも。
だけど実は弱いところも。
もっと知りたい。
数年後。
姫は結婚をした。
国王は安心して王位を継承したそうだ。
時々新しい王様とお姫様は。
城下町のどこかでこっそりクレープ屋をやっているという噂が流れていた。
終