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―武道大会当日



斎藤から聞いたところによると参加者は百人を超えていたらしい。




永「お前らは出ないんだな。」



王の警備をすることになっている総司と斎藤に問いかけた。




沖「冗談でしょ。あんな可愛げのない姫様に興味ないから。」




斎「俺は上にたつ器ではない。」




それぞれ思うところはあるのだろうが正直こいつらが参加していなくてほっとする。
簡単に勝てる相手じゃねぇからなぁ。





朝から次々と試合が始められあっという間に半分ほどに減る。
中には試合をする前に逃げ出す者もいて、夜には決勝が行われることになった。




平「さっすが新八っつぁん!決勝まで残るなんてな。」



決勝戦の前に城の食堂で食事をとっていた。
応援にきていた平助や左之も一緒だ。



原「決勝は国王や姫さんの前で試合だろ?お前の勇姿見せてやれよ。」




永「あぁ・・。」




もう少しだ。



俺が。




名前を笑わせてやる。





























決勝戦は城の広場で行われた。
たくさんの観客に見守られて。





ちらりと目をやると名前が驚いた顔をしてこちらを見ている。
そりゃそうか。俺がこんなところにくるなんて思わなかったんだろうな。



すると彼女はぎりぎりまで俺の方へ近づいてきた。
土方さんも慌てて後を追ってくる。





 「どうして・・?」



可憐な声が届く。




永「どうしてって?」




 「あなたも・・お金や地位がほしい人だったんですか?」



少し傷ついた表情をしたように見えたのは俺の気のせいか?




永「まぁ、そこで大人しく見ててくれよ。」





俺はそう言うと目の前の敵に目をやった。
体格は俺と同じぐらいか。
ただここまで残っているんだ。そうとう強いんだろうな。




永「なぁ、ひとついいか?」




敵「なんだ?」




永「あんたは、姫さんのこと好きなのか?」




敵「は?何を言っているんだ。好きも何もあんな小娘どうでもいい。俺は国王になりたいんだ。」





永「そうか・・。」




姫に一目ぼれしたんですとでも言ってくれりゃ勝ちを譲れたかもしれないのに。





永「じゃあ遠慮なくぶっとばせるなぁ!」





俺は剣を握りしめ思い切り向かって行った。
































強かった。



最後の敵なだけあって強かったが。



俺も負けられない理由があるんだよ。















国王「勝者は永倉!」





わああという歓声に包まれ、俺は剣をしまった。
国王のほうを向くと横に無表情の名前。
まぁ、無理もねぇか。
俺も多分こいつらと同じ、金に目がくらんだ奴だと思われてるんだろうし。






土方さんに手招かれ、俺は国王と姫の前にひざまずいた。





国王「見事な戦いであった。そなたに姫と結婚する権利を与えよう。さぁ、式はいつにしようか?」




永「それなんですけど、王様。」





国王「ん?」




永「俺、姫様と結婚する権利はありがたくいただきます。だけど、使うつもりはないです。」




 「え!?」




無表情をつらぬいていた名前が目を丸くした。後ろについている土方さんも同じ表情をしている。


いや、静まり返った会場の人間全て同じ顔をしているんだろう。




永「だから。他の野郎が姫と結婚するのは許しませんけど・・。姫が、いつか好きな人ができて、結婚したいと思ったら、その人に俺はこの権利を譲ります。」




 「永倉さん・・。」




国王「いや・・しかし・・。」




永「俺はしがないクレープ屋ですから。王様になりたいとか思ったことないし、金も地位も別にいらない。のんびり仲間と楽しく暮せりゃいいんです。」




 「あの・・永倉さん・・。」




永「どうした、名前。」




 「永倉さん・・ごめんなさい・・さっきあんなこと。」



ボロボロと綺麗な目から涙をこぼして名前が謝り続ける。きっと試合前に俺を疑ってしまったことを後悔してるんだろ。




永「気にすんなって!たまにはクレープ食べに来てくれよ?」




笑いかけると名前が泣き笑いになる。


そうだよ、俺は君に笑っててほしいんだ。




永「いつか好きな奴と・・幸せになれよ?」






そう言って一度だけ頭を撫でると俺はその場を立ち去った。

後ろからぎゃーぎゃー騒いでいる平助と慌てた左之が追ってきたけど。


俺はすがすがしい気分だった。

   

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