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 「クレープ・・ください。」



可憐な声がした。
生地を混ぜるのに夢中だった俺はすぐに顔を上げる。




永「お前・・。」




 「今日はお金持ってきましたよ?」




また城を抜け出してきたのか?
総司と斎藤が頭を抱えている光景が浮かんだがすぐに連絡する気になれなかった。すまん。





 「昨日作ってくれたのがいいです。」



永「おぉ・・。」



俺は屋台の陰になっているところに椅子をだして彼女を座らせた。

昨日の放送を見ている人間は多い。
もう彼女の顔も認識されているだろう。




クレープを作り彼女に手渡した。
相変わらず小さな口で、上品に食べている。
この城下町の雰囲気に合わないはずだ。
住む世界が違ったんだ。






 「おいしい!あの、あなたの名前は?」



永「あ・・永倉・・新八です。」



 「どうして敬語なんですか?」



永「いやーでも・・。」



 「昨日の放送を見ました?」



永「あ・・まぁ。名前姫だろ?」




彼女はテレビで見たような無表情になる。



 「はい。」



永「その・・一人で城を抜け出すなんて危ないことしちゃいけねぇよ。何かあったらどうするんだ。」



 「別に・・。どうでもいいんです。」



ちゃんと味わえているのかわからないスピードでクレープをたいらげる彼女の横にしゃがんだ。



 「武道大会は開催されることになりました。そこで優勝した人と私は結婚しなくてはなりません。好きでもない人と。」



永「それは・・。」



 「私のことを好きな人ではありません。地位と名誉、お金がほしいだけの人です。」



永「そうとは限らねぇよ?」



 「私のことなんて何も知らないのに?少なくとも放送を見ていれば私がどんなじゃじゃ馬かわかったでしょう?それでも私のことを好きで大会に出る人なんているでしょうか?」




言葉に詰まった。
確かに。
どう考えたって、地位や金に目がくらんだ奴の方が多いはずだ。




 「私も・・普通の女の子が良かった。こうやって好きな時にクレープを買いに来れるような。・・好きな人と結婚できるような。」




永「名前姫・・。」



 「永倉さん、名前で呼んでもらえませんか?」



永「えぇ!?いや・・それは・・。」



 「お願いします。ここにいるときぐらい、普通の女の子になりたいんです。」



そう言うとぺこりと頭をさげる。
そ・・そんなことされたら・・。




永「頭あげてくれ、名前。俺はお前のこと、普通の女の子として扱うから//」



 「永倉さん!ありがとう!」




そう言って笑う彼女は。
まるで太陽のようだった。

テレビで見たあの彼女も本当の姿なんだろうけど。
俺の前に確かに存在する彼女だって本当の姿なんじゃないのか?




永「・・ジュースも飲むか?」



 「うん!」



屋台からジュースをとって戻ってくると名前の周りに数人の男がいた。



永「おいっ!あんたら何を・・。」




土「すまん、うちのが面倒をかけたな。」




永「あんた・・確か。」



昨日一緒に映っていた総司達の上司だ。
なんでここに?




 「私戻らないわよ。」



土「ワガママ言ってんじゃねぇ。一般市民に迷惑かけんな。」




一般市民。



わかりきってることだが改めて言われると彼女との距離を感じた。




 「やだやだ!あほ土方!はなせー!!!永倉さん!」




土「あんたも店の邪魔しちまって悪かったな。」




一言俺に謝ると数人の男達はあっという間に名前を連れ去って行った。












それから数日。


名前は一度も店にくることはなかった。








永「なぁ、左之。俺はあの時連れ去るべきだったのか?」



原「やめとけ新八。そんなことしてたらお前今頃あの世だぞ。」




仕事を終え、左之の店にいくのはほぼ毎日の日課だが今日は酒が進まない。




平「新八っつぁん・・重症だね。」



沖「ちなみに名前姫は土方さんの厳重警備によって一歩もでられないだろうから、もうここにくることはないだろうね。」




斎「武道大会まであと二日だ。無理もない。」





―そこで優勝した人と結婚しなくてはなりません。好きでもない人と・・。





沈んだ顔をした彼女が思い浮かんだ。
無理もないさ。
好きでもない奴と結婚しなくちゃいけねぇなんて。
あの年頃でだぞ?




永「なぁ、斎藤。それ当日に城にいけば出場できるんだよな。」



沖「へぇ、新八さんでるの?物好きだね。」



斎「あぁ、当日に城にくればいい。」



平「本気かよ!?新八っつぁんが王様とか・・似合わねぇ!!!」



うっせぇ!
俺は別に王様になるとかどうでもいいんだ。




俺の願いはただ一つだ。

   

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