放課後。
男の子数人がフォークダンスの相手を探し始めていた。
無理もない。
男同士で踊るなんていう悲しい結末は誰ひとり望まないはずだ。
「あの・・藤堂君。」
平「ん?」
「ちょっといい?」
平助が呼び出しをくらう。
良かったなー平助などと周りのからかいも聞こえてきた。
女子から誘うなんて積極的。
でも、それだけ彼女は平助が好きなんだな。
平助、その子の気持ち気付いてるんでしょ?
なんで私なの?
でも、もしかしたらフォークダンスぐらい一緒に踊るかも。
誰だって誘ってもらえたら嬉しいよね。
そしてそのまま。
付き合っちゃったり?
フォークダンスを一緒に踊った二人がカップルになるのは珍しいことじゃなかった。
毎年学園祭で何組もカップル出来上がってるし。
だから。
もしかしたら。
平助に彼女ができたら。
今までみたいにいられないのかな?
今までみたいに。
くだらないこと話したり。
一緒にアイス食べながら課題したり。
でかけたり。
あの人かっこいいとかそんな話も。
アタックしてもからまわりになることも、はいはいって聞いてもらえてたけど。
それもできなくなるの?
私ってワガママなの?
総司や土方さんに恋愛対象じゃないなって流されても。
斎藤君に恋愛相談されても。
多分ほとんど傷ついてなかった。
そこまで本気じゃなかったんだと思う。
そして何より。
いつも平助が近くにいて、話聞いてくれてたから。
思わず教室を飛び出した。
さっき出て行った二人を追う。
どこ!?
どこに行ったの?
階段のところで上から降りてきた彼女とすれ違う。
急いでいたせいで表情が見れなかった。
喜んでたの?
それとも?
上から降りてきたということは。
平助は屋上だ。
思い切り駆け上がって屋上の扉をあけた。
「平助!」
平「名前?どうしたんだよ。」
平助は一人で校庭を見下ろしていた。
私の登場にかなり驚いているようだ。
「平助・・あの子と踊るの?」
平「は?あ・・それは。」
「やだ。」
平「?」
「あの子と踊らないで。」
平「どしたんだよ、急に。」
「私・・ワガママみたい。平助の気持ちも知らないで恋愛相談してたし。告白してくれてもすぐに返事しないし。なのに・・。」
平助が私の目の前に立つ。
「なのに・・平助が他の子と付き合って、今までみたいに一緒にいられないと思ったら。苦しくて・・さびしくて。」
平「名前・・。」
「これ、何?なんて表現すればいいのかな。苦しくて、さびしいの!!」
平「ははっ。お前・・そんな力強く言うなって。」
笑いながらぽんぽんと頭をたたく平助に思わず怒る。
「ちょっと!なんで笑うの!?人が真剣に・・。」
平「だって嬉しいじゃん。そんだけ俺のこと好きってことだろ?」
「好き?」
平「誰かにとられたくないとか。傍にいてほしいとか。好き以外に聞こえないけど。」
平助は少し意地悪そうに笑った。
手は相変わらず私の頭にのっている。
「わ・・私そんなこと言ってない!」
平「だって寂しいんだろ?」
「そうは言ったけど・・。」
平「くくっ・・。それ、好きって聞こえるよ。俺には。」
「平助!」
恥ずかしくなってつい下を向く。
好きってことなの?
そうなの?
平「フォークダンス。もちろん俺と踊ってくれるよな?」
「え?でも、平助・・。」
平「断ったに決まってんだろー。俺、お前以外と踊るつもりないもん。」
「そうなの?」
平「でも、こんなに早く名前と付き合えるとは思わなかったな。さすがずっと思っていただけあるわ。神様っているのかも。」
「つ・・付き合う?」
平「だめ?」
う・・そんなくりくりした目でこっち見るな!
昔からこの目に弱い。
平「だって俺、お前のこと好きだもん。それこそ何年も前から。で、お前の気持ちもわかったんだし、付き合いたいと思うけど?」
「それは・・そうだけど。」
平「名前。」
平助に名前を呼ばれると次の瞬間には目の前にネクタイが見えた。
平助の腕の中だ。こんなにくっつくのは小さい時以来で。
でも、こんなに大きくなかったし、がっしり男の子らしい体じゃなかった。
恥ずかしくて一気に体温が上がる。
「へ・・へいすけ・・。」
平「好きだよ。」
優しくて甘い言葉がふってくる。
平「今までも一緒だったんだ。これからもずっと一緒だ。一番傍にいる。」
「平助。」
平「お前の気持ち、ちゃんと聞きたい。」
「私も・・好き。多分。」
平「おい!多分ってなんだよ!」
「だって!まだ頭がおいつかないのー!」
その後もぎゃーぎゃーと騒いでいた私たちは、校舎を施錠してまわっていた斎藤君につまみだされた。
そして学園祭。
私が着る予定だったメイド服がいつの間にかきぐるみになっていたのは謎だけど。
無事フォークダンスも踊り終わった。
そして帰り道。
平「楽しかったなー学園祭。」
「喫茶店疲れた・・。」
平「でもお前と踊れて・・良かった。」
少し照れたような表情でそう言う平助に心臓がドクンと音を立てる。
平助のことが好きなんだと自分で意識しだしたらもう。
近くにいるだけでドキドキしてしまって。
今まで総司や土方さん、斎藤君にキャーキャー言ってた自分のあの気持ちはなんだったんだって思うぐらい。
好きってこういうことなのかと認識した。
「私も。平助と踊れてよかった。」
平「ほんとか?」
「うん。だって、好きな人と踊れたから。」
平「・・・・・・・・・・。」
「平助?」
平「お前、今好きって・・。」
「え?好きなの平助知ってるじゃん。屋上で言ってたじゃん。」
平「あの時は多分って言ってたし、あの後改めて言われてなかったから・・。」
「そ・・そうだっけ?」
あれ?じゃあ私はさらりと告白したの?
は、恥ずかしすぎる!
平「もう一回ちゃんと言ってくれ。名前!」
「えぇ!?そんなこと言われると恥ずかしいよ、無理無理!」
平「やだ!」
「何そのワガママ!?」
すると平助は私の腕を掴み抱き寄せる。
そして。
「っ・・。」
キス、された。
平「好きだ。名前のこと。」
「私も・・好き。」
ずるい。
平助は私を素直にさせる方法を知っているようで。
いや。
実際知ってるんだ。
私の好きなものも嫌いなものも。
小さい頃から一緒だったんだもん。
そして。
これからも。
一緒。
初めてのキスは。
月がでている帰り道。
ちゃんとお互いの気持ちが通じ合った。
そんな夜のことだった。
終