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平助に告白されてから。
どうしたって目で追ってしまう。
こんなにいつも近くにいたのに。
私は全く彼を見ていなかったんだ。



平「おーい。名前。遅刻するぞ。」


あれからも毎日。
変わらず朝迎えに来る平助。
まるであの告白が嘘みたいに。
何も変わっていないんだ。


 「ごめんごめん。」


平「ったく。あまり遅いと一君に怒られるぞー。門のとこで厳しくチェックしてるんだから。」


斎藤君は風紀委員で毎朝校門のところにたっている。
前まではそれも楽しみの一つで。
たくさん話したいからわざと遅刻したいぐらいだったけど。


今はそんな気持ちは全くない。


平助と変わらず登校できていることにほっとしている自分がいた。



 「今日はテストだよね。」


平「はぁ・・朝からテンション下げること言うなよなー。」


 「だ・・だって現実だから!」


平「そうだけどさー。あ、テスト前にでそうなとこ教えてくれよ。」


 「自分でがんばりなさいよ。」


こんなやりとりができて良かった。

もしも話してくれなくなったらどうしようって、きっと平助以上に私が思っていた。


平助のこと好きかって言われると正直わからない。
だってそんな風に考えたことないし!



平「おーい。名前?」


ぼーっとしていたらしい。
平助が覗き込んでいた。


ち・・近い!


 「わ!何!?」


平「何じゃねぇよ。話しかけてるのに何も言わないから。」


 「あ、ごめん。何?」


平「いや、後で話すよ。ほら、ついたし。」


遅刻することなく。
校門にいた斎藤君とたいした話をすることもなく。
私たちは教室に入って行った。













テストも無事に終了し、休み時間になった。
解放感からかみんないつもより騒がしい。


ふと平助を見るとクラスの女の子と話をしていた。


楽しそうだな。


そんなことを考えているといつの間にか目の前に斎藤君が立っていた。



斎「・・好きなのだな。」


 「は!?え!?いや、何故?!」


斎「何を慌てているのだ?」


あ、斎藤君完全に呆れモード。
だって変なこと言うから。


 「別に好きとか考えたこと・・。」


斎「?いや、彼女は平助が好きなのだなと。」


そう言って斎藤君の指す方向には平助と楽しそうに話しているクラスメイトがいた。


 「え?そうなの?」


斎「どう見てもそのようだが。いつも話しかけているようだし。」


言われてみれば・・平助の近くにいつもいるような・・。


 「自分のこと、好きって言ってくれる人と付き合ったほうが幸せなんじゃないのかな?」


斎「そうとは限らない。」


私の呟きを即座に否定する斎藤君。
ここまできっぱり言われると逆に爽快。


斎「じゃあ俺と付き合ってくれと言われたら、お前は俺と付き合うのか?」


 「え?」


斎藤君から相談を受ける前だったら。
何も考えずに頷いていたと思う。
だって憧れてたし。

でも今は。

 「いや・・それは。」


斎「だろう?自分も少なからず相手を思っていなければ、今のようにすぐに答えはでるはずだ。付き合えないと。」


 「まぁね・・。」


斎「少しでも迷いが生じているなら別だがな。」


 「?」


斎「迷うということは相手に少しは好意があるということだと思う。」


 「!?」

ちょっと待ってよ斎藤君!

それじゃすぐに断らなかった私は・・。

迷ってしまった私は・・。


平助のこと。




いやいやいやいや!
そんな風にみたことなかったもん!
考えてなかったから戸惑うのは当たり前じゃん。
そうだよ。

普通のことだよ。



おそらく百面相をしていた私を斎藤君が相変わらずの呆れモードで見ていた。
無表情のように見えるけど、これ違うの。
呆れてるの。



斎「ま・・まぁ、何を悩んでいるのかよくわからないが。何かあったら言ってくれ。いつでも聞く。」


 「あ、うん。ありがとう。」


心配してくれてたのかな?
いつもと変わらないようにしていたつもりだけど。



平「どうしたんだよ?」


 「わぁぁ!」


平「な・・なんだよ!」


今度は後ろに平助がいた。
さっきまで教室の後ろにいたじゃん!


平「一君と喋ってたから。大丈夫か?」


その大丈夫は何の大丈夫?
まだへこんでると思われてるのかな。


 「うん。」


平「相談受けてたのか?」


 「あ、いや・・。自分のこと、好きって言ってくれる人と付き合うほうが幸せじゃないかっていう論議。」


あ。
しまった。


平助が少しさみしそうな顔をする。
困ったように笑って。


平「じゃあ、お前俺と付き合える?」


 「それは・・。」


平「別に焦ってないし。ゆっくりでいいよ。それに。好きな奴には本当に好きな人と幸せになってほしいんだ。」


 「平助。」


平「なーんて!がらにもないこと言ってみたり♪さっきテスト前ありがとな!お前が言ってたとこでて助かった。」


 「あぁ、よかったね。私も本当にでたからびっくりした。」


平「まじ天才!次もよろしくなー。」


 「真面目に勉強しなさい!」


そんなこと言っているうちにチャイムがなってしまった。
次の授業がはじまる。

平助は笑いながら席に戻って行った。

 「よし、今から学祭の出し物きめるぞー。」


先生が黒板に字を書いていく。

そういえばもうすぐ学園祭だ。
次々と意見が出て、うちのクラスは喫茶店をやることになったらしい。
しかもコスプレ・・コスプレ!?
何着るんだよ!!


 「あとそれから、学園祭ラストのフォークダンス。早めに相手探しておけよ。特に男子。この学年男が多いから早く見つけないと男同士で踊るっていう一番悲しいことになるぞ。」


さっさと出し物が決まったのもあり、残りの時間は自習になった。

そういえば。
この学校は学園祭の最後をフォークダンスで飾る。
面倒と言ってさぼる生徒もいるが、だいたい律儀に参加していた。


平助は・・どうするんだろ。

   

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