「これ!!!!」
平「は?」
名前が嬉しそうに俺の目の前に手を突き出す。その手にはカメラが握られていた。
「デジタル一眼買っちゃった♪前からずっと欲しかったやつ!!!!!」
そう言うと名前は嬉しそうにカメラをいじりはじめた。説明したいのだろう、俺の横に座り込む。
なんだよ。
俺の焦りを返せ。
「見ててね。まず普通にとるとー。」
そう言って目の前のケーキにピントを合わせる。
カシャっと小気味いい音がして写真がとれる。
「でねでね!ほら、こうやると他の所がぼやけたり・・トイカメラとかにすると、ほら!雰囲気かわるでしょ?」
同じ対象なのに確かにイメージががらりと変わった。
俺もおもしろくて身を乗り出してカメラの液晶を見る。
平「すげー!」
「でしょ?すごいよね!私でもめちゃくちゃ綺麗にとれるんだよ!」
気が付いたら名前の笑顔が近くて。
俺はだいぶ距離を縮めていたことに怯んだ。
照れを隠すように目の前のケーキに手をつける。
「平助。」
平「ん?」
呼ばれて思わず名前のほうを見るとカシャとシャッター音が響いた。
「平助モノクロだとかっこよくとれてるよ。」
モノクロモードにしてとったらしい。
平「モノクロだと、ってどういう意味だよ。」
「あははは。」
平「かせよ、それ。」
俺はカメラを奪うと名前にピントを合わせる。
「ちょっと!あんまり近くでとるの禁止!」
平「はいはい、笑えって。」
俺はそう言ってシャッターをきった。
カメラの液晶に笑った名前がうつる。
くそ・・可愛いって思っちまうのが悔しい。
平「お前カラーのほうがいいな。」
「え?」
平「アホ面が鮮明にうつされて・・いてっ!」
横からすかさずノートが降ってきた。
地味に痛いから・・その攻撃。
「平助の馬鹿!」
平「お前も同じようなこと言ってんだろ!」
「女の子にむかってアホ面とは何よ!」
平「女の子って・・どこにいるんだよ、女の子。」
「言ったな―!?」
平「ははっ。悪かった悪かったって。」
いつも通りのじゃれあいで。
名前も笑ってると思っていたのに。
平「名前?」
少し伏し目がちで黙ってる。
平「どした?」
「やっぱり。女の子らしい子っていいよね。」
平「何言ってんだよ、いきなり。」
「平助もそうでしょ?」
平「俺は・・女の子らしいとかよくわかんねぇけど。一緒にいて楽しいとか、元気がでるような奴がいい。」
つまり。
お前がいい。
って何で言えないかな、俺は。
「そっかぁ。平助らしいね。」
平「どうしたんだよ、なんか変だぞ。・・さっき一君が来てたのと関係あんの?」
「え!?なんで知ってるの!?」
平「いや・・たまたま見たから。」
「そっか。」
名前は紅茶を一口飲むと膝をかかえて話し始めた。
「実はね。斎藤君に相談されたの。」
平「相談?」
どうやら告白とかではなかったようで。
俺はほっとした。顔がゆるまないようにするのが正直精一杯。
「斎藤君、隣のクラスの子が好きなんだって。でね、その子と私仲が良いからいろいろ教えてくれないかって。」
平「あー・・そういうこと。」
自分がいいなって思っている相手から恋の相談を受ける。
このつらさ、俺以上にわかってあげられる奴いないだろ。
「ま、平助もご存じの通り、私は斎藤君ファンなのでショックが微塵もないと言っては嘘ですが。とはいっても・・まあ。そんなに傷ついてはいないんだよね。」
自分の好きな芸能人に恋人ができましたとニュースで聞くような感じ?と笑いながら話す。
「ただ・・その子、女の子らしい子だから。少しひっかかって。」
平「何がだよ。」
「私がいつも憧れる人、そういう子が好きって人が多かったから。やっぱり女の子らしい子がいいんだろうなって。そりゃそうだよね。誰だって守ってあげたくなるような子がいいよね。」
確かに。名前はしおらしくないし。
料理もそんなに上手じゃないし。
今でもTシャツ短パンなんていう男らしい姿だし?
でも。
困ってる人放っておけないし。
小さい子にもお年寄りにも優しいし。
自分がきついときも笑顔だし。
俺にとっては。
十分守ってあげたい奴なんだ。
なぁ。
俺はずっとこのままでいいのか?
変わらない関係続けるより変えていくことが大事なんじゃないのか?
平「俺は。お前を守りたいって思う。」
意外にも簡単に口からこぼれおちた。
一言でてきたらもう後は簡単だった。