俺はどれくらい立ちつくしてたんだろう。
近くでセミがビビッと飛び去った音でやっと全ての感覚が体に戻ってきた。
平「やべっ・・アイスとける!」
コンビニの袋を拾い上げ、ダッシュで名前の家に飛び込んだ。
「いらっしゃい平助君。」
名前のお母さんが玄関からちょうど出てくるところだった。
平「こんちは!あれ?おばさん、出かけるの?」
「うん。そんなに時間かからないと思うけど。早く課題終わらせちゃいなさいよ。」
平「わかってるって!」
そう言うとおばさんは笑顔で出かけて行った。
小さい頃から来ている俺におばさんは全く警戒心がないんだよな。
信用されてるんだか、意識されてないんだか・・。
自分の家を歩くようにまっすぐにあいつの部屋へ向かった。
ノックして声をかけるとどうぞーって声がする。
言われなくてもノックするようになったんだぜ?
あいつは全く気にしてないけどな。
平「よ。ほら、お土産。」
「わ!アイスだ!・・ってとけてるよ平助!」
Tシャツ短パンという完全なる部屋着姿。
お前もう少し警戒しろ。
ってか・・
まさかそれで一君と一緒にいたんじゃないんだろうな。
そもそも何で一君がここにきてたんだよ・・。
聞きたいことが次から次へと溢れだすのに。
どれも声にならないで消えていった。
ほんと情けねぇな、俺。
「チョコミント♪さすが平助わかってるー。」
嬉しそうにアイスを食べ始めた名前。
当たり前だ。何年一緒にいると思ってんだよ。
お前の好きなものなんて把握してるっつーの。
アイスを食べながら器用に教科書をめくり、シャーペンを走らせている。
正直こいつ頭いいから、課題の時にお世話になるのはだいたい俺なんだけど。
文句言わず・・いや、少し言われるけど付き合ってくれるのは俺が幼馴染だからなんかな。
「さっさと課題終わらせて。どっかでかける?それともゲームでもする?」
平「まだ始めたばかりだろ・・。終わった時間で決めようぜ。」
「りょーかい☆」
俺としても早く課題から解放されてこいつとどこかでかけられたら嬉しいし、ものすごい集中力を発揮する。
幸いなことに今日の課題は俺も好きな生物だったからそんなに苦しむことなく終わることができた。
「平助終わった?」
平「・・おわった!」
「良かった良かった。よし、じゃあご褒美にお茶を入れてきてあげよう。」
そう言って名前は立ちあがり部屋を出て行った。
あいつがお茶を入れてくれる・・?
雨でもふるのか?
普段なら素直に喜ぶところなんだけど。
まるで何か嬉しいことでもあったみたいで。
さっきの一君の表情を思い出して憂鬱な気持ちになる。
もやもやと考えていると名前がトレイにお茶を持ってきた。
紅茶とケーキ。
「ケーキもらったんだ♪平助はチーズケーキ好きだよね?」
ケーキもらったって。
絶対一君だよな?タイミング的に他に考えられないんだけど。
かたやお店のケーキ。
そして俺は・・コンビニアイス。
憂鬱な気持ちに拍車がかかった。
なのに。
俺の好きなチーズケーキを持ってきてくれるってだけで喜んじまう単純な自分を呪いたい。
平「サンキュー・・。」
「どうしたの?平助、元気ないね。」
平「お前は嬉しそうだよな・・なんか。」
「え?わかる??わかっちゃう?」
え・・・。
いや、そんなつもりで言ってないんだけど。
何それ。
何この展開。
いや、待ってくれ!俺まだ心の準備が・・。
今聞いたら俺、立ち直れる自信がない!
「実は・・。」
平「わぁぁぁ!待っ。」
待ってくれという俺の声にかぶせぎみで告げられる。