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「だめだ・・眠れないよー。」



ゴロゴロと布団の上を転がる。
もう床に就いてからどれくらいの時間がたったのだろう。
眠らなきゃと思うほど眠れなくなり、
忘れなきゃと思うほど忘れられないのだ。

「幽霊なんて・・いないいない。」

何か違うこと考えないと・・。

明日の朝餉はなんだろう・・
当番は斎藤さんだったはず。
ということはおいしいご飯だ!!
この前沖田さんだった時は青菜が黒菜になっていたもん。無言でみんな洗いにいったし・・
あれ完全な嫌がらせよね。

そのあとはお洗濯して、お庭のお掃除して
あ、確か原田さんが巡察帰りにお団子買ってきてくれるって言ってたからお茶を準備して。

平助君は確か非番だった。
一緒にお団子食べてくれるかな?

平助君は気さくで優しくて
ここに来たばかりの時、すぐに友達になってくれた。
いつからか友達とは違う感情を抱いてしまっていたけれど・・
平助君はどう思っているのかな・・

違うこと考えて、やっときた眠気。
夢と現のはざまで揺れて
いつの間にか眠りについた。



 (ん・・朝・・?)

瞼を閉じていてもわかる。
明るい・・もう朝がきたのだ。


 (起きなきゃ。当番ではないけれどお手伝いを・・)


瞼をひらき、起きあが・・


 (あれ?動かない・・?)


起き上がるどころか指すら動かず
瞼もひらけない。


 (え?え?え?)


必死に体を動かそうとする。

動かない。

いや、体ってどうやって動かすんだっけ?

目は・・?

手は・・?


 
(どうなってるの!?)



―幽霊が近くにいるとさ、金縛りにあって動けなくなるらしいぞ―

いきなり原田さんの言葉がよみがえる。



(嘘!嘘嘘!)


動かない体、出ない声。
どうしようもない恐怖に思わず目が熱くなる。


(誰か・・平助君!平助君!)



一番に頭に浮かんだ人物を必死に呼んだ。
するとパタパタと廊下を走る音が響き自分の部屋の前で止まる。


「名前〜もうすぐ朝飯できるってよ!」



ふすまの向こうからまさに思い人の声がした。



(平助君!)
「名前?寝てるのか?開けるぞ?」



ふすまが開く音がする。
続いて部屋に入ってくる足音。

「珍しいなーこいつが寝坊なんて・・。」


ドガッとおそらく平助君が腰をおろした音。

(起きてるよ!起きてるんだよ!助けて・・)
「名前・・朝だぞ。」



額に手の感触。



(なでられてる・・?)
「よく寝てんなー。もう少し寝かしといてやるか。」
(やだやだ、行かないで・・。)



――ザザッ
布のこすれる音がする。



(平助君でていかない?もしかして、横にいる?)



平助は名前の横に添い寝している。
もちろん、布団には入らず畳の上だが。
手は相変わらず頭をなでていた。



「名前の寝顔見られるなんて運がいいな、俺。今日は非番だし、一緒にいられたらいいな。」
(平助君・・。)
「こいつは俺のこと、なんとも思っていないんだろうなぁ。」

小さなため息とともに呟く声。


(え?それって・・。)
「俺はとっくに好きなのに。」
(!?)



「あー腹減った!食べて食べて食べまくる!」
「新八、食べ過ぎんなよ。」



廊下から永倉さんと原田さんの声が聞こえた。



「もう起こすか。おい、名前、名前。」



平助くんに肩をゆすられる。

外からの刺激で何かが変わったのか、
瞼が動いた。



「起きたか。朝餉だぞー。」
「へ・・平助君。」


顔が熱い。
絶対赤くなっていると思う。


「お前が早起きしないなんて珍しいな。」

朝から笑顔が眩しい。
というか、まともに顔が見られません!!



「どうした?顔が赤いけど熱でもあんのか?」
「だ・・だだ大丈夫!」
「そうか?じゃ、俺先に行ってるから。早くしないと新八つぁんに全部とられるぜ。」
「うん・・わかった。」


そういうと平助君は部屋をでていった。

顔が熱い。
頭が働かない。


―俺はとっくに好きなのに―


本当?本当?
夢じゃ・・ない。

ぼーっとしながら着替えを始めた。

さぁ、朝餉を食べたらお洗濯をしよう。
そして非番の彼のところに行こう。



平助君、あのね・・



きっと思いを伝えられる。
幸せな金縛りのおかげで。




  end 

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