一度スイッチが入ると進むもので。
何とか仕事を切り上げ家についたのは10時をまわっていた。
原「ふぅー。」
風呂上がりに酒を飲むのは日課だ。
いつもなら缶ビールに手が伸びるところだが。
ふと視界に違う酒が入った。
数日前に上司からもらったものだ。
自分ではなかなか買わない高い酒。
禁酒中の上司が名残惜しそうに譲ってくれたものだった。
いつもなら名前と一緒においしくいただくのだが・・。
原「・・・あいつも飲みに行ってるんだし。」
そう呟いて日本酒をあけることにした。
別に男と酒を飲みに行くぐらいで今更妬いたりはしないが、ケンカ中にいくのが気に入らない。
原「たまにはあいつから謝るとかしないのか。全く・・。」
ぼやきながら酒を口に入れた。
原「あいつ、もう解散したかな。」
二口目。
原「まさか終電おわるまで飲むつもりじゃねぇだろうな・・。」
三口目。
原「・・・・・。」
俺は一体どうしたいんだ?
自分から謝りたくないのか?
じゃあなんでこんなに悩んでいる。
こんなに考えるぐらいなら動けばいい。
自分から折れたくないなんて今更。
いつものことじゃないか。
原「くそ・・。結局、あいつの思い通りだな。」
でもそれが一番だと気付いて思わず笑う。
原「酒、残しておくか。」
携帯に手を伸ばした時、着信音が響いた。
原「!」
ディスプレイには―沖田総司―の文字。
原「総司?」
ボタンを押した。
沖「もしもし。」
総司の声はいつも通り飄々としているが後ろが騒がしい。まだ居酒屋にいるのだろう。
原「どうした?」
沖「どうしたって、聞いてません?名前さん僕たちと飲みに来てるんですけど。」
原「あぁ。千鶴から聞いた。」
沖「荒れてますね。どんなケンカしたんですか。」
原「残念ながら覚えてねぇんだよ。」
沖「何それ。」
総司がクスクス笑う。後ろから名前の声が聞こえた。ばかやろ―って叫んでいるようだ。もっと女らしくしとけ。
沖「むかえ。こなくていいんですか?」
原「・・。」
沖「あんまり野放しにしてると、送り狼になりますよ。」
どこまで本気なのかわからない声で総司が言った。
一瞬言葉に詰まったがすぐに返す。
原「わざわざ電話かけてくれるような奴はそんなことしねーよ。」
すると今度は総司が黙った。
しかしすぐに笑いながら話してくる。
沖「ずるいなー左之さん。そんなこと言われたらできないじゃない。」
原「するつもりないだろ。」
沖「ま、僕はともかく、土方さんや一君もいるんだし。今日は迎えに来たほうがいいと思いますよ。店の場所メールしますね。」
そう言って電話が切れた。
すぐにメールの着信音がなる。
店の場所は徒歩で行けるところだった。
もしかしたら総司がそうしてくれたのかもしれない。
上着を羽織って家を飛び出した。
走るとからしくねぇ。
こんなに焦った気持ちになるのも。
恋愛なんて余裕でいられると思ったのに。
店が見えたので携帯をかけようと思った時。
「まだ飲みたいー!!!」
沖「ほらほら、今日はもうやめておこうね?」
「何よー総司!明日休みじゃん!もう一軒いこーよー。ね、一君、いいよね?」
斎「あ・・あぁ。」
土「そのへんにしておけ。お前飲みすぎなんだよ。」
店から騒がしく名前達がでてきた。
久しぶりに・・見た。
久しぶりに声を聞いた。
久しぶりに触れたい。
そう思ったら足が動いていた。
沖「あ。」
「?」
原「名前。」
「・・左之?」
名前は俺の姿を見つけると目を丸くした。
酒のせいか顔が赤い。
だが一気に酔いがさめたようだ。
「なんで・・?」
原「なんでじゃねぇ。迷惑かけんな。帰るぞ。」
「なんで・・。」
原「総司、ありがとな。土方さん、迷惑かけました。斎藤も悪かったな。」
一気に三人に詫びを入れ、名前の腕を掴んで歩きだした。
斎藤も土方さんもポカンとしていたが総司だけが笑っていた。後はまかせてといわんばかりに手をふる。
腕を掴んでぐんぐん歩いた。
俺のアパートまでもう少し。
それまで俺は無言。
名前もためらった表情をしている。
部屋につくと名前はソファに座った。
少し俯いている。
俺は必死で言葉を探したが気のきくセリフが一切でてこなかった。
「あ。」
原「あ?」
「いいお酒飲んでる!左之ずるい!」
お前、開口一番それかよ。
一週間口きいてなかったんだぞ。
原「もらったんだよ。お前と飲もうと思ってたけど・・お前飲みに行ってたし。」
「う・・。でもあまり飲んでないね?」
原「あぁ。三口しか飲んでねぇ。」
「どして?」
どうしてって。
気付いちまったからだよ。
原「一人で飲んでもうまくねぇ。」
「え?」
原「お前がいないとどんなに高い酒飲んでも味がわかんねぇんだよ。」
「左之・・。」
原「ほら、飲むぞ。」
「うん・・。」
原「一週間も話してないんだ。今日は朝まで飲むからな。」
「うん!」
反則なんだよ。その笑顔。
酒飲んでる時も良い顔してるけど、今の笑顔は本当に良い。
原「悪かったな、この前は。」
「ううん、私もごめん!」
いつも通り俺から謝って。
そして名前が謝る。
お前の思い通り?
それでいいんだ。
お前の笑っている顔が見られるならなんてことねぇんだよ。
つまりは俺の思い通りなのか?
「左之ねむーい。」
原「何言ってんだよ。」
「えー?」
原「寝かせると思ってんのか?」
そう言ってソファから名前を抱き上げる。
「え!?こら!左之!」
原「一週間も会ってないからな。」
手の中でぎゃーぎゃー騒ぐ名前を無視し、俺は上機嫌で寝室へ向かった。
せっかく明日は休みなんだ。
朝までたくさん話そうぜ。
終