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 「原田先輩ってかっこいいよねー!」

 「うんうん。大人っぽいし、そこらへんの男子とは違うよね。」

 「それに優しいよね。この前重そうな荷物持ってた子を手伝ってあげてたよ。」

 「その子うらやましー!」
 
 「面倒見がいいから後輩の男子にも人気だって。そういう人素敵だよね。」

 「もてるけど、それを鼻に掛けないし。」

 「最高だよねー。」


そんな会話をよくきくようになった。
先輩、同級生、後輩問わず。

左之兄が優しいことなんて知ってる。
面倒見がいいことも知ってる。
男子からも慕われていることだって。
謙虚なことだって。

そんなこと。昔から知ってる。

たくさんたくさん左之兄のいいところ知ってる。

私が一番知っていると思ってたのに。

これからは他の人が左之兄の一番近くにいることになるのかな。

そんなの

やだ。



いつもの帰り道。

暗い気持ちで左之兄の横を歩いていた。


原「お、名前ちょっと待ってろ。」

 「?左之兄?どうしたの?」

いきなり左之兄が走り出した。
行った先はたまに買いに行くケーキ屋さん。

しばらくすると箱を持った左之兄が戻ってくる。

原「新発売、アーモンドマドレーヌだってさ。お前が好きそうだなと思って。」

 「え?あ、うんありがと・・でもなんで?」

原「なんか元気ないから。」

なんで?
なんでわかっちゃうの?

昔から落ち込んでいるとすぐこうやって左之兄が何かお菓子をくれた。
小さい頃の私はすぐに喜んで元気になるから。
それからこの年になっても左之兄は私にお菓子をくれる。

原「お前顔にすぐでるからな、小さい頃から同じだ。」

そう言って笑う左之兄に
わかってくれているという嬉しさと
自分が成長していないと言われているような悲しさが両方こみあげた。

原「何かあったら俺に言え・・。」

 「左之兄には関係ない。」


あ。
私何言って・・


原「そう言うなって。俺とお前の仲だろ。なんでも兄ちゃんに相談しなさいって。」


兄ちゃん。

違うもん。
左之兄は・・お兄ちゃんじゃない。

 「関係ないってば!左之兄は私のお兄ちゃんなんかじゃないでしょ!」

やだ。
妹だなんて思わないでよ。

原「おい、名前・・。」

 「お兄ちゃんなんて思ったことない!もうかまわないでよ!!!」

とまらない。
言いたくないのに。
こんなこと思ってないのに。


左之兄のそんな悲しい表情見たくないのに。


これ以上ここにいられなくて、
私は家まで走った。

両親に呼ばれても夕食を食べる気にはなれなかった。

携帯電話に左之兄からの着信があったけれど、かけなおせなかった。

だめだ。

もう完全に嫌われた。

なんでこんなことに。

なんで素直に言えないの。

好きなんですって。
小さい頃からずっと。
お兄ちゃんじゃなくて。
男の人として。
大好きなんですって。


言いたいだけなのに。

   

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